羊達が、パーティ会場の周りで土ぼこりを上げている…-。
その光景に気を取られたせいで、私はいつの間にか羊の群れに巻き込まれてしまっていた。
(ど、どうしよう……!)
どうにかその場に留まろうとしたものの、勢いに圧されてしまう。
するとその時、誰かに強く手を引かれ、抱き上げられた。
アザリー「娘! 危ないところだったな」
先ほどの男性……アザリー王子が、私の腕に抱いて笑っている。
〇〇「す、すみません」
アザリー「いや、気にするな。男として当然のことをしたまでだ」
私を抱いたまま、アザリーさんは赤い絨毯を踏んで会場の中へと入っていった。
カリム「アザリー王子。そもそも、しちらの女性を巻き込んでしまったのは、王子の愛する羊です」
後ろからついて来ているカリムさんが、こっそり耳打ちをする。
アザリー「む、そうだったか。では羊が君を僕のもとへと運んでくれたんだな」
アザリーさんは屈託なく声を上げて笑い、私を絨毯の上にふわりと降ろした。
アザリー「娘、名はなんと言う」
〇〇「あ、えっと……〇〇、です」
アザリー「〇〇。よい名だな。羊の縁で、今日の僕のパートナーを務めることを許す」
光栄だろう、と語尾につかなかったのが不思議なくらいに、アザリーさんはあっさりとそう決めつけた。
〇〇「あ、の……。 パートナーって……?」
アザリー「そうだ。僕に選ばれたんだよ、〇〇は!」
(そ、それは答えになってないような……)
どうして良いかわからずに、私は曖昧に笑った。
アザリー「む? 不思議そうな顔をしているが……ああ、そうか! うっかりしていた。僕としたことが、まだ名乗っていなかったな。 僕はアザリー。出自は……ふむ、それは少々無粋か」
(王子様って、さっき聞いちゃったけど……)
アザリー「まあよい。細かいことを気にしても仕方がないからな。 僕は金砂の国・サリューシャの正統なる王位継承者だ」
(あ、あれ?結局名乗ってる……?)
どこかおかしな展開に、瞬きすら忘れてしまう。
カリム「アザリー様、お席の準備ができました」
アザリー「そうか! 〇〇、あれを見ろ」
うろたえる私を気にすることなく、アザリーさんは会場の真ん中辺りを指し示した。
〇〇「これは……」
砂漠にあるような天幕に、ふわふわのクッション、それになぜか、さきほどの羊達……
周りの人々がそれを見てざわめいていた。
(も、ものすごく注目されている……。 当たり前と言えば当たり前なんだけど……)
アザリー「急ごしらえだが、まあいいだろう。VIP席ってところだな」
アザリーさんは満足げに笑う。
(な、何だか、すごいパーティになりそうな気がする……)
周囲のことなどおかまいなしに……
彼の瞳は楽しそうに輝いていた…-。