アヴィ「彼女が、怪我をした。今すぐに手当てを」
絵画の件でもみ合い、足を怪我してしまった私を、アヴィはずっと抱きかかえて部屋まで移動してくれた。
侍女「え。ア、アヴィ様っ?」
侍女さんが、目を丸くしてアヴィと私を見ている。
アヴィ「何をぼんやりしている。足の怪我をすぐに手当てしてくれ。傷が残らないように」
侍女「は、はいっ」
侍女さんが慌てた様子で、足の手当てを始めてくれた。
アヴィもまだ、そばにいてくれるかと思ったのだけれど……
アヴィ「もう大丈夫だな」
アヴィは傷を消毒してもらい始めた私の姿を確認すると、すぐに背を向けようとした。
〇〇「アヴィ! あの、ありがとう」
アヴィ「何で、お前が礼を言うんだよ」
〇〇「だって心配してくれたんでしょう?」
アヴィ「……そいつのこと、頼むな」
アヴィは侍女さんに念を押すと、振り返ることなく部屋を出て行ってしまった。
その後、侍女さんに、女性に奥手なアヴィが私を抱いているから驚いたと色々と聞かれてしまった。
(でも……私はアヴィの特別な人じゃない)
(嫌な過去を聞いてしまったみたいだし、きっと心の傷に触れちゃったんだ)
アヴィの辛そうな顔が、いつまでも私の胸を苦しくさせている。
――――――――――
アヴィ「絵に残したって、何も意味がない」
アヴィ「死んだら、
それで終わりじゃねえか……!」
――――――――――
出会ってからずっと、私の傍にいて守ってくれたアヴィ。
ずっと傍にいたから、アヴィのこと知った気になっていたのかもしれない。
(もっと、アヴィのことが知りたい……)
その晩……
昼間のアヴィとのことを思い出して、どうしても眠れずにいた。
(……眠れない。少しだけ、風に当たってこよう)
何度目かの寝返りの後、私は中庭に降りることにした。
夜の中庭は、本当に美しかった。
月明かりに照らされた青紫色の花々が、淡い光を放っている。
(青紫色の、お花……)
アヴィのことを思い出して、胸がちくりと痛む。
(私、無遠慮に彼の過去や心を、詮索してしまった)
(会って……謝りたいな)
〇〇「……あれ?」
胸を痛めながらアヴィのことを考えていた時、視界の隅を、白い何かが横切った。
(フラフ?)
フラフは、とてとてと庭を通りすぎ、門をくぐりぬけて行く。
(外に出て行こうとしているの?こんな夜に……)
フラフを切なげに見つめる、アヴィの表情を思い出す。
(フラフに何かあったら、アヴィがまた悲しんでしまうかもしれない)
私は、慌ててフラフを追いかけた。
その頃……
〇〇の足についてしまった傷が、目に焼きついて離れない。
アヴィは窓際で頬杖をつきながら、息を吐いた。
アヴィ「手当て、ちゃんと受けただろうな……あいつ」
眠れないからと開いた本のページは、先ほどから少しも進んでいない。
アヴィは物憂い顔で、もう何度目かのため息をまたこぼした。
アヴィ「……明らかに、俺が悪い。 ……あいつ、まだ起きてるかな」
アヴィは、〇〇に会うべく、自室を出た。