どこまでも広く青い空の下、大地の裂け目へと滝が絶え間なく落ちていく…ー。
アマノ「アカグラに同盟を申し出ている隣国は、特にモンスター討伐にも熱心なんです。 けれどアカグラは……僕は、積極的な討伐には乗り気になれなくて」
○○「……乗り気になれない?」
アマノ「……ええ」
滝から私に視線を戻し、アマノさんが困ったように瞳を閉じる。
(あ……)
ーーーーー
アマノ「けれど、僕は…ー」
ーーーーー
(あの時の表情と同じ)
○○「すみません、話したくないなら……」
アマノ「あ、いや……」
私の声に彼は顔を上げて、こちらを見た。
やがて一つ小さく息を吐いて、アマノさんは手にしていた弓を私に見せた。
アマノ「この弓です」
○○「それは、神から授かったっていう……?」
アマノ「はい」
アマノさんは、弓を静かに太陽にかざした。
アマノ「このアカグラ王家に代々伝わる神弓は、その名の通り古くに神から授かった弓なんです。 地上から願いを込めて放つと天上にある神々の国まで届くと言われています」
○○「神々の国に……?」
アマノ「伝承です。そういえば○○も、信じていませんでしたね」
くすりと、弓を下ろしたアマノさんのいたずらっぽい笑みが向けられた。
ーーーーー
アマノ「僕はアマノ。このアカグラの射手として神から授かった弓を扱いし者」
○○「神から?」
ーーーーー
○○「あ、あまりに突然だったので…ー」
アマノ「ふふ……そうですよね。僕の一族にそう言い伝えられているので。 もちろん、その威力も絶大です。僕はこの弓の継承者であることを誇りに思っています。 だからこそ……」
アマノさんの顔つきが、見たこともないほどの険しさを帯びる。
アマノ「そんな尊い弓を、民を守るためならともかく、必要のない討伐のために携え持つなんて……!」
その声はこれまでに聞いた彼のどの声よりも苦渋に満ちていた。
○○「……では、同盟は結ばないと?」
アマノ「……同盟に関しては、父の意向もあります。僕の一存では決められない。けれど……」
苦悶の表情を浮かべながら、アマノさんがぎゅっと弓を握りしめる。
アマノ「できれば僕は、この弓は人々を守るためだけに使いたい。 神から授かったこの弓は……無益な殺生をするためのものでは、決してないのです」
○○「……」
力のこもるアマノさんの手に、そっと自分の手を重ねた。
アマノ「!?○○……?」
○○「初めは、あまり感情が見えない人だって思ってたんです」
アマノ「え…ー」
○○「でも街に着いて、皆に慕われているのを見て……今こうして、アマノさんの本当の心を知れて。 すごく素敵な人だって、そう思っています」
まっすぐにそう告げると、アマノさんの頬が急速に赤く染まっていって……
アマノ「あ、あの……!どうしよう、困りました……。 嬉しい……です」
視線を私と合わせないまま、アマノさんはぽつりとそうつぶやいた。
手袋越しに、今は彼の手の温もりがしっかりと感じられる。
○○「この弓は、アマノさんの願いの通り……守るべき時に使うものだって、私もそう思います」
アマノ「○○……ありがとうございます。本当に嬉しいです。 けれど…ー」
不意に、アマノさんが私の手を強く握り直した。
○○「アマノさん?」
アマノ「君に笑いかけられる度に……君と過ごせば過ごすほどに……。 あの使者の言った言葉が鋭い棘となって僕の胸に刺さったまま抜けないんです。 もし、大切な人の命が僕の悩んでいる間に失われたら……」
そう口にされた声は重々しく滝の落ちる谷底へと吸い込まれていったのだった…ー。