植物園の中を一通り散策した私とサキアは、一番の目的地である熱帯植物用ドームへやってきた。
(少し、蒸し暑い・・・・・・)
ドームの中は、南国を思わせる植物がうっそうと生い茂り、甘く熟したような匂いで充ちていた。
(一番人気ってだけあって、ここも人がたくさんいる)
混雑する道を歩く私を気にかけながら、サキアはゆっくり歩いてくれていた。
けれど・・・-。
サキア「展示に常緑広葉樹が多いのは・・・・・・優占種だから・・・・・・」
(常緑広葉樹・・・・・・優占種・・・・・・)
ドームを進むにつれて、サキアの説明がだんだんと難しくなっていく・・・-。
サキア「こっちのは、着生植物の・・・・・・一種で・・・・・・。 根の代わりに着生根が発達してるから・・・・・・茎葉を使って栄養を摂取したりするんだ」
一生懸命に内容を理解しようとするけれど、相槌を打つことしたできなくなっていく。
(けど・・・・・・わからないって言ったら、サキアはがっかりしちゃうよね)
(わかったふりで相槌を打つのも、話を遮るのもしたくないし)
(どうしよう・・・・・・)
サキア「でね・・・・・・羽状複合の感じとか・・・・・・中心柱の複雑さがすごいんだ・・・・・・」
○○「・・・・・・」
必死に理解しようとするけれど、何と返していいかわからずに黙り込んでしまう。
すると・・・-。
サキア「あ・・・・・・」
何かに気付いたかのように、サキアがハッとして鼻の頭を掻き始める。
サキア「僕の話・・・・・・ちょっと専門的過ぎた・・・・・・かも」
○○「・・・・・・ごめんね」
一生懸命に説明をしてくれる彼に申し訳なくて、視線を地面に落とすと・・・・・・
○○「!」
サキアが私の顔を覗き込んで、優しく笑ってくれた。
サキア「・・・・・・真剣に聞いてくれた・・・・・・僕、嬉しかった・・・・・・。 もう一度・・・・・・今度はもっと丁寧に説明する・・・・・・ね」
○○「ありがとう・・・・・・!」
けれど・・・-。
大好きな植物に囲まれているからか、彼はまた途中から早口になってしまう。
(サキアらしいな・・・・・・)
夢中なせいか、口調だけでなく、サキアの歩くペースもだんだんと速くなっていく。
(このままじゃ、サキアとはぐれちゃう・・・・・・!)
私は慌ててサキアの背中を追いかけた。
けれど、進めば進むほどに、混雑は増していく一方で・・・-。
○○「ま、待って・・・-」
けれどサキアは、するりと人混みの間を抜けて進んで行く。
息を切らしながら人波の中を見つめるけれど、私は完全にサキアの姿を見失ってしまった・・・-。