手を繋いで、私達は園内へと入った…-。
園内は少し蒸し暑く、たくさんの人で賑わっていた。
サキア「驚いたー……人いっぱいだ……」
サキアも圧倒されたように立ち止まり、辺りを見回している。
サキア「皆……こんなに植物に、興味があったんだね」
○○「毒薬の国っていうぐらいだから、みんな薬草や植物に興味があるのかと思ってたけど……」
サキア「うーん、仕事してる人は……興味あると思うけど……。 でも……たぶん一部の人だけ……だよ」
サキアの声が、少し小さくなる。
○○「……そうなんだ」
サキア「人いっぱい……少し苦手。 でも、僕は植物が見たいから平気……○○は……嫌、じゃない?」
サキアの言葉に、私は…-。
○○「私は大丈夫。でも……」
サキア「でも……?」
○○「植物の方は、驚いてるかもしれないね」
サキアは私の言葉に、少し面食らっているようだった。
サキア「植物が……驚く……?」
そして、クスクスと可笑しそうに笑い出した。
サキア「たしかに、そうかもー……ここにある植物は、人が少ないところに生えてるのも多いし。 僕と一緒で……きっと、たくさんの人を見てびっくりしてるね……」
愛おしそうに植物を見るサキアに、思わず笑みがこぼれた…-。
それから私達は、広い庭園内をゆっくり見て回った。
土の匂いのする林の中の遊歩道を通り抜けると、そこには一面の花畑が広がっていた。
○○「……綺麗……」
そう表現するしか思い当たらず、私はその景色の美しさに、ただため息をこぼした。
サキア「うん……。 よく花畑を……絨毯にたとえたりするけど……。 ……僕はベッドにして、あの上で寝たいなー……」
隣を見ると、にこにこと楽しそうに笑うサキアの横顔……
○○「サキアらしいね」
サキア「え…-」
○○「ううん、気持ち良さそう!」
私とサキアは二人並んで、しばらくの間、花畑を眺めていた。
お互いの手を繋いだまま、静かな時間が流れて行く。
すると…-。
サキア「……なんか……混んでるのに……うるさくないね……」
○○「え?」
そう言われて耳を澄ましてみると、確かに園内は人の多さの割に静かだった。
サキア「……林の中、歩いてる時もそうだった……なんでだろー……」
問うような彼の眼差しに、私は…-。
○○「たくさんの花や緑が綺麗だから、言葉が出てこなくなるんじゃないかな……」
サキア「そういえば……○○も、さっき……黙ったままだったよね」
○○「うん。あまりに花が綺麗だったから」
サキア「そっか……うん、そうかもしれないね」
サキアの口元が、優しく綻んで……
(あ……)
サキア「君も……今日はなんだか少し大人しい……? いつも、元気いっぱいなのに」
そう言って、彼はクスリとひとつ笑みをこぼす。
その柔らかな笑顔に、胸が小さく音を立てた。
○○「そ、そうかな…-」
胸の音が次第に大きくなって、思わずうつむいてしまうと……
ぎゅっと、私の手を握る力が強くなった。
サキア「そろそろ……熱帯植物用ドームのほう……行こう?」
○○「……うん」
胸の高鳴りが収まらないまま……私はサキアに手を引かれ、ドームへと歩き始めた…-。
…
……
花畑を背にして、しばらく進む。
熱帯植物用ドームは、最も人気の施設らしく、人波もそちらに向かってできていた。
(あ、見えてきた)
ドームに近づくほどに人の流れは増していて、入口付近は混雑がかなり激しい。
(すごい人の数……)
その時…-。
繋いでいた手が放されたかと思うと、その手で肩をぐっと引き寄せられる。
サキア「……大丈夫?」
人混みの中、すれ違う人とぶつかりそうになった私をサキアが庇ってくれた。
○○「うん……ありがとう」
サキア「……気を付けて……」
顔を上げると、私の顔を心配そうに見下ろすサキアの顔が、間近にあって……
(胸が……どきどきして)
気恥ずかしさに、私は顔をうつむかせてしまうのだった…-。