サキアと一緒に来たミュージアムショップは、綺麗な花々であふれていた。
けれど…ー。
サキア「いまのジキタリスだけじゃなくて……このお店で扱ってる草花は……みんな毒を持ってるから」
○○「じゃあ、ここは毒花や毒草の専門店……?」
問いかけると、サキアがすまなさそうに頭を掻いた。
サキア「そう……先に教えておけばよかったね……ごめん……」
改めて店内を見回すと、他のお客さんは白衣を着ていたり、分厚い学術書を携えていたり……
研究員や学者という風貌の人ばかりだった。
(毒の知識がない素人は、私だけみたい……)
その時、サキアが私の手を握る力を強くした。
○○「サキア……?」
サキア「栽培したりするのは危険が伴うから、専門的な知識がないといけないけど……。 綺麗な花を見て楽しむのは、誰にでも許されてるって……思う。 毒がある花でも綺麗なもの……いっぱいあるし……○○に見せたいんだ……」
前髪で隠れて分からなかったけれど、サキアの瞳はきっと優しく細められている……
なぜだかそんな気がして、私も彼に微笑み返した。
○○「うん。サキアが一緒にいてくれれば、毒のある花でも安心だよね」
私の言葉を聞き終わると、サキアは指先で自分の前髪をつまんだ。
(サキア、照れてる……?可愛いな)
サキア「……○○はジキタリスみたいな花が好きなんだよね。 見た目が似たような花だと……うーん……」
前髪をつまみながら、サキアが唸っていると…ー。
店員「お客様、もしよかったらなんですが……」
ちょうど横を通りがかった店員の女性が、遠慮がちに声をかけてきた。
店員「この時期、裏の森にジキタリスが群生しているんです。 とても美しいので、見に行かれてはいかがですか? ここの職員がちゃんと観賞用に手入れもしてあるので、危険はないかと思います」
サキア「え?……群生……?」
店員さんの言葉に、サキアの声のトーンが高くなる。
サキア「えと……どうしようか?」
(そわそわしてるから……すごく見に行きたいんだろうな)
○○「うん、見に行きたいな」
私の返事を聞き、サキアがこの上なく嬉しそうに頷く。
(良かった……なんだか、私まで嬉しくなっちゃう)
ミュージアムショップを後に、私達はさっそく教えてもらった森へと向かった…ー。
…
……
森の中は、見学者用に道が舗装されていて散策できるようになっていた。
けれど今は私達二人の他に、人の姿は見当たらない。
(天候のせいかな)
そう思いながら、曇り空を見上げると……
サキア「あー……雨、降ってきちゃったね……」
○○「そうだね……」
私は来た道を振り返りながら、返事をした。
(森の入口、見えないな)
引き返すにしても、進むにしても、時間がかかりそうだ。
(これ以上、雨脚が強くならないといいけれど……)
しかしその思いとは裏腹に、雨脚はだんだんと強くなっていった…ー。