庭園までに続く坂道から、すでに紫陽花が見えていた。
赤、青、紫――どの色の紫陽花も、とても豊かに咲いている。
○○「綺麗だね……」
フォーマ「紫陽花の色は、土のPH値によって違うんだよ」
○○「えっ、そうなの?」
フォーマ「酸性なら青色、アルカリ性なら赤色に変わる。そういう特徴を持っているんだ」
○○「フォーマって物知りだね」
フォーマ「そうかな?」
フォーマは嬉しそうに顔をほころばせた。
フォーマ「庭園にはもっと沢山咲いているよ。行こう」
私達は坂道を上り、庭園へと向かった。
満開の季節ということもあり、庭園には大勢の人達が紫陽花の鑑賞に来ていた。
○○「フォーマ、大丈夫?」
私は、フォーマの顔を覗き込んだ。
フォーマ「大丈夫だよ。綺麗な物を見ている時は、人は悪い感情を抱かないから」
今日のフォーマの顔色は、とても良さそうだった。
○○「それに……」
私は思わず声を潜める。
○○「皆さん、フォーマのことに気付かないで良かったな……って思って」
フォーマ「たぶん、こんなところに王子がいるなんて思わないんだよ」
(そうか……よかった)
私達は、安心して紫陽花鑑賞を楽しんだ。
…
……
庭園の中へ進んでいくと、石段伝いに紫陽花が咲き誇っていた。
(すごい……!)
そこでは、大勢の人達が記念撮影をしている。
(カメラ……いいなぁ)
フォーマ「写真撮りたいの?」
私の気持ちに気付いたのか、フォーマは鞄の中から、小さなカメラを取り出した。
フォーマ「持ってきて良かった。撮るよ」
○○「えっ……!?」
(どうしよう。一緒に撮りたいけど……)
(でも、さすがに誰かに頼んだら、フォーマが王子様だってばれちゃうよね)
フォーマ「○○?」
○○「えっと……」
(どうしたら一緒に撮れるかな?)
私は言葉を探すが、なかなか見つからない。
フォーマ「?」
(少し恥ずかしいけど……ストレートに伝えた方が良いよね)
○○「あのね、フォーマ。 私、フォーマと一緒に撮りたいな……」
フォーマ「僕と?」
○○「駄目かな?」
フォーマ「だ、駄目な訳がない!」
フォーマは顔を赤くしながら、否定をした。
(良かった)
フォーマ「そうだな……まずはもう少し近寄ろうか?」
私達は紫陽花の前に立ち、ぎこちなくその距離を縮めた。
フォーマが片手で持つカメラのレンズに入るように、二人の顔を近づける。
フォーマ「……と、撮るよ」
二人で撮った写真は、きっとぎこちない笑みを浮かべているに違いなかった。
(でも……一緒に撮れて嬉しい)
(早く出来上がりが見たいな)
初めての記念写真は、私の宝物になる……私はそう、確信した。