第3話 貸切列車の旅

私達は、ベーカリーで買ったパンを持って、駅へと向かう。

ホームにはすでに、二両編成の電車が停まっていた。

駅員がうやうやしく私達に頭を下げる。

駅員「どうぞ、素敵な旅をお楽しみください」

○○「あ、ありがとうございます!」

(誰も乗ってない……本当に貸切なんだ)

フォーマ「前の車両に乗った方が、景色がよく見えるよ。 さ、行こう」

○○「うん」

私はフォーマに促され、車両に乗り込んだ。

車内は、足元にふわふわのシートがひかれ、内装は全体が暖かみのある色で統一されていた。

私達は、真ん中のボックスシートに、向かい合って座ることにする。

(すごい……これがまさに、お召列車っていうんだよね?)

興味津々で、車内を見回していると――

フォーマ「ははっ」

フォーマが突然、声を出して笑った。

○○「どうしたの?」

フォーマ「いや、なんだか嬉しそうだなって思って」

○○「えっ?!」

つい本音を言い当てられ、頬が火照ってしまう。

フォーマ「○○は分かりやすいからね」

○○「そう……かな……」

(何だか恥ずかしい)

フォーマ「僕の周りにはあまりにも二枚舌な人が多いから。 だから、○○と一緒にいると安心するよ」

フォーマのその言葉に私は……

○○「単純ってことだよね」

フォーマ「○○のそういうところが良いんだけど。 こんなに喜んでもらえるなんて、やっぱり電車にして良かった」

そう言うと、フォーマは優しく微笑む。

次の瞬間、電車が発車し、その反動でお互いの膝が触れ合った。

フォーマ「あっ……ご、ごめん」

○○「う、ううん」

フォーマに微笑まれ、私は思わず、目を逸らしてしまう。

向かい合って座っているため、私達の距離はいつもよりも近い。

そのことに改めて気づき、私の胸が音を立て始めた。

(ちょっと、緊張するかも……)

フォーマ「見て、いい景色だ」

フォーマの視線が窓の外へ注がれ、私はほっと胸を撫で下ろす。

窓の外には山々がそびえ立ち、その雄大さに私は目を見張った。

フォーマ「せっかくだから、景色を見ながらパンを食べよう」

○○「そうだね」

フォーマと一緒にバゲットサンドを食べながら、窓の外を眺める。

○○「おいしい……!」

フォーマ「やっぱり、パンを買って正解だったな」

○○「うん!」

フォーマが窓を開けると、柔らかな風が車内に吹き込んできた。

○○「気持ちいい……」

フォーマ「ああ、毎日がこれだけ平和だと良いんだけど……」

フォーマは拳をぎゅっと握りしめると、決意に満ちた表情を見せた。

フォーマ「決めた! 今日は日常を忘れることにする。 毒のことは一切考えないようにするよ。 だから、今日は一日、思いきり楽しもう!」

フォーマの表情は、とても清々しい。

(こんな機会、きっとなかなかないんだ)

(今日くらいは、何も考えず心から楽しんで欲しい……)

○○「……うん!」

力強く頷くと、フォーマは嬉しそうに笑って、眼鏡を押し上げた。

窓から流れゆく景色、柔らかな風、美味しいパン――。

私達は、その穏やかなひと時を、思い切り味わった。

……

数時間後。

電車は山麓の駅に到着した。

ホームに降り立つ前から、既に花の甘い匂いが立ち込め、私の鼻腔をくすぐった。

(いい匂い……)

フォーマ「さ、行こうか」

○○「うん」

私はフォーマに促され、ホームに出る。

(紫陽花、楽しみだな……天気が持つといいけど)

見上げると、空が少し暗さを帯びてきていた。

そのことを心配しながらも、私は弾む気持ちで紫陽花のある庭園へと向かった…―。

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