高く澄み渡った青空が、頭上に広がっている。
(晴れてよかった)
今日は、フォーマと紫陽花を見に行く約束をしていた。
絶好のお花見日和で、私の気持ちは跳ね上がる。
私は、フォーマが指定した駅へと向かったけれど…―。
駅なのに、人が全くいない。
(場所、間違ってないよ……ね?)
周囲を見渡していると、フォーマが前方からやって来た。
(あれっ? いつもと印象が違う……)
フォーマは、いつもよりラフな格好をしている。
○○「フォーマ、今日の服似合ってるね」
フォーマ「そ、そうかな?」
フォーマは照れ臭そうに、頭を掻いた。
(あれっ……)
フォーマは手に傘を持っていた。
○○「フォーマ、傘持ってきたの?」
フォーマ「ああ、今日は雨が降るって聞いてたから」
○○「こんなに天気が良いのに……」
フォーマと私は、曇りのない空を見上げて、雨が降らないように願った。
(あっ、そうだ……)
○○「ねえ、フォーマ。駅なのに、何でこんなに人がいないのかな?」
フォーマ
「この列車は、王室のみが使える貸切列車なんだ。 本当は国民と同じ列車に乗ってもいいかなって思ったんだけど。 人が多いところは、やっぱり苦手で。城の皆にも反対されたし。 普通に出かけることが出来なくてごめん……」
フォーマは残念そうにぽつりとつぶやいた。
○○「でも、貸切列車なら周囲に気兼ねしないで、たくさんお話できるね」
フォーマ「○○にそう言ってもらえると嬉しいよ」
フォーマの顔が、ぱっと晴れた。
フォーマ「そうだ、もっと列車の旅を楽しくする方法がある」
フォーマはそう言うと、駅の反対側の道へと歩き出した。
ついた場所は、大きなベーカリーだった。
○○「ここって、フォーマのお気に入りのところだよね?」
フォーマ「ああ、そうだよ。電車の中で、○○と食べたいなって思って」
○○「ピクニックみたいで楽しそう」
フォーマ「好きなパンを選ぼう。○○はどんなパンが食べたい?」
○○「あっ、これがいいかな」
目の前にあったバゲットサンドは、チーズがたっぷり入っていて、とても美味しそうだった。
フォーマ「いいね。僕もこれにしよう」
(なんだかこういうのって良いな……)
普段はなかなか味わうことの出来ない穏やかな時間に、私はそっと身を任せた。
フォーマ「これをもらえるかな」
フォーマが会計をしようとすると、店主のおばさんが私達をまじまじと見てくる。
フォーマ「……何か?」
フォーマが警戒しているのが、震えた声で分かった。
店員のおばさん「美男美女でお似合いだって思ってさ。ほら、これおまけしておくよ」
店員のおばさんはそう言うと、焼きたてのパンを袋の中に入れてくれた。
○○「ありがとうございます」
フォーマを見ると、安堵したようにほっと息を吐いていた。
パンを受けとり、私達は駅へと向かう。
(お似合い……)
私は密かに、おばさんの言葉をそっと噛みしめていた…―。