動悸は治まらないまま、車は走り続ける。
(アピスさんって、すごく運転が上手)
丁寧な運転に、段々心が落ち着いていく。
アピスさんの腕に掴まらせてもらっていた私は、ふと彼の腕にひどく力が入っていることに気がついた。
〇〇「アピスさん、緊張してますか?」
尋ねると、彼は少し考えるように首を傾げる。
アピス「……まあ、少し」
(やっぱり……)
〇〇「慣れないと、運転緊張しますよね」
アピス「は?」
〇〇「でも、すごく安全運動だし、運転お上手なのに」
アピスさんは、しばらく黙りこんでから、迷ったように口を開く。
アピス「……違うから。 普段は緊張しないし、こんなに気をつけて運転したりしない」
〇〇「え?」
アピス「君を乗せてるからだよ」
〇〇「……っ!」
彼は臆面もなくそう言って、余裕たっぷりにハンドルを切る。
(そんなこと、言ってもらえるなんて……)
瞬きを繰り返す私を見て、アピスさんはふっと笑みをこぼした。
アピス「目にゴミでも入った?」
〇〇「い、いえ」
アピス「じゃあ、まぶしかったかな」
そう言って、彼は日よけを下げてくれた。
〇〇「……ありがとうございます」
胸がいっぱいで、私はそう言うことしかできない。
アピス「うん」
アピスさんは、私の髪をそっと撫でた。
アピス「海、見えてきたね」
〇〇「はい……」
胸の音が大きく響き、私は流れている音楽に必死に意識を集中させる。
〇〇「あ、あの、綺麗な音楽ですね」
アピス「うん」
〇〇「これ、アピスさんの好きな曲ですか?」
アピス「好きなのかな? よく聴くけど」
〇〇「アピスさん、音楽お好きですよね。フルートだって、すごくお上手だし」
アピス「フルートは、母の為にやってた部分もあるから」
〇〇「私、アピスさんの演奏大好きですよ」
アピス「……っ」
〇〇「また聴きたいです」
心を込めてそう言うと、彼は顔を背け、車を止めた。
アピス「……ほら、到着」
見ると、彼の頬が少しだけ赤い。
何だか嬉しくなって、思わず笑ってしまった…-。