赤い曼珠沙華達が、不安そうに揺れている…-。
従者「アキト様、ご歓談中すみません」
私達に近づいてきたのは、アキトさんの城の従者の方だった。
従者「お取引先の大使の方が、緊急でお会いできないかとおっしゃっておりまして……」
アキト「……そう」
その報せに、アキトさんは短くため息を吐いた。
(アキトさん?)
その顔からはもう、あの柔らかな笑みが消えていた。
アキト「わかった、すぐに戻るよ」
従者の方に短く答えると、アキトさんはこちらを振り返る。
〇〇「あの、大丈夫ですか?」
アキトさんが何か言うよりも先に、問いかけた。
アキト「え……?」
すると、アキトさんは一瞬驚いたように目を見開いた。
〇〇「……アキトさんの表情が、なんだかその……辛そうだったので心配になって」
アキト「そうですか……ありがとうございます。貴方は本当に優しい。 けれど大丈夫です。ただ、貴方ともう少しゆっくり過ごしたくはありましたが……」
残念そうな顔を見せるアキトさんに、ちくりと胸が痛む。
〇〇「……私も、です。お仕事が終わって、アキトさんにお時間ができたら、また……」
アキト「ええ、そうですね。 また明日、貴方のお時間をください。城まで一緒に戻りましょう」
そっと背に添えられた彼の手が、ひどく冷たく感じた…-。
…
……
城まで戻ると、アキトさんは私が宿泊する部屋まで案内してくれた。
アキト「ゆっくり、過ごしてくださいね」
優しくそう言ってくれるアキトさんの顔色は、やはり少し青白い。
〇〇「あの、アキトさん……本当に大丈夫ですか? なんだか顔色も悪いみたいです」
心配になり、アキトさんをじっと見つめると、アキトさんは、ふっと困ったように笑みを浮かべた。
アキト「ええ、大丈夫です。ありがとうございます。 ……貴方は本当に優しくて……美しい人ですね。 なんだか……」
〇〇「……?」
何かを言いかけたアキトさんは、そこで一度口を閉じた。
不思議に思っていると、またすぐに口を開けて……
アキト「いえ、何でもありません。今日はゆっくりとお休みくださいね」
優しい声音は何も聞くなと拒絶しているようで、問うことができなくなる。
(何を言おうとしていたんだろう……?)
そのまま、アキトさんは私に背を向け仕事に向かってしまった。
夜の闇にまぎれ、動き出した者達の存在には気づかずに…-。