国へ招待してくれたアキトさんは、その後、花畑へと私を連れて行ってくれた。
〇〇「あれは……!」
対岸に広がる真っ赤な絨毯のような光景に、目を奪われる。
アキト「貴方が、我が国を花が多く美しいと言ってくださったので、あの花畑をお見せしたいと思いました」
〇〇「すごい……一面、真っ赤ですね……」
向こうの花畑を赤く染め上げていたのは、深紅の曼珠沙華だった。
〇〇「綺麗ですね……」
感嘆のため息と共に、心のままに感想をこぼすと……
アキト「綺麗、ですか……貴方はとても心が美しいのですね」
〇〇「え……?」
ふと、心がざわめくのを感じてアキトさんを見る。
アキト「ある人はあれを見て、血のようだと言いました」
悲しく儚げに微笑む姿が、あの真っ赤な花の絨毯と同じくらい強い衝撃を私に与えた。
〇〇「そんな……」
アキト「けれどあながち間違いではないんです。 曼珠沙華の毒のせいで失われた命もある……それを思えば、その感想も納得できます」
どこか諦めたような表情で、アキトさんはつぶやく。
〇〇「曼珠沙華には、毒があるんですか?」
アキト「ええ、そうです」
曼珠沙華を切なげに見つめていたアキトさんが、静かに瞳を閉じる。
アキト「けれど……」
〇〇「っ……」
瞳をそっと開いたアキトさんは、次の瞬間、ふわりと幸せそうに微笑んだ。
アキト「それでも貴方をここへ連れて来たかったのは、どこか期待をしていたからでしょうか。 結果、貴方は……私にとても素敵な言葉をくださった」
〇〇「私が……ですか?」
アキト「はい。 貴方は、綺麗だと言ってくださった。 私はそれはとても嬉しかったのですから、どうかそんな顔をしないでください」
(こんなふうに笑ってくれるなんて……思わなかった)
予期せぬ笑みに、とくとくと鼓動が速まるのを感じる。
アキト「貴方を招待して、本当によかったです」
それから私達は、曼珠沙華の花畑を見ながらたくさん話をした。
〇〇「でも……こんなに綺麗なのに毒があるなんて」
アキト「主に球根に毒があります。ですが、毒抜きは簡単にできるので、非常食になることもあるんです」
〇〇「じゃあ、そんなに怖いものではないんですね」
少し安堵を覚えてそう言うと、アキトさんはまた嬉しそうに微笑んだ。
アキト「そう思っていただけると嬉しいです。 毒は……考え方を変えれば、薬にもなります。だから…-」
アキトさんがそこまで話した時…-。
アキト「!」
花畑に遠く人影が見え、アキトさんは口をつぐんでしまった…-。