次の日も、アインツさんと弟さんの練習は早朝から開始された。
アインツ「見ろ! オレの華麗な剣さばき!」
アインツさんがすごい勢いで剣を振り回し始める。
○○「すごい……!」
拍手をする私に、アインツさんがウインクしてみせる。
アインツ「だろ? ○○!」
振り回す彼の剣に、弟さんがトンと剣先をぶつけた。
○○「あ……」
アインツさんの手から、あっけなく剣が落ちる。
アインツの弟「……真面目にやる気はあるの?」
アインツ「オレはいつだって真面目だ!」
アインツの弟「のわりに上達しないけど?」
アインツ「わかってないなオマエは! オレはまだ本気を出していないだけだ! 本気のオレにかかれば、オマエなんか必殺技を出す前に終わるぞ!」
アインツの弟「……あの長い名前のやつか」
アインツ「そうだ! アインツミラクルスーパーナンバーワンアタックだ!」
アインツの弟「勢いよく真っ直ぐに剣を振り下ろすだけのやつね」
ため息交じりに弟さんが剣を構え直した。
(アインツさんって……)
(でも、まあ……)
冗談を言っているけれど、彼の額には汗が光っている。
(すごく一生懸命……私も何か手伝えないかな)
(そうだ!)
アインツさん達を残して、私は調理場へ向かった。
城の人に頼んで調理場をお借りして腕捲りをしてレモネードを作り始める。
…
……
○○「よし、これで完成かな?」
(アインツさん、喜んでくれるかな……)
アインツ「何を作ってるんだ? ○○」
○○「ア、アインツさんっ!」
いつの間に来ていたのか、アインツさんが、肩越しに私の手元を覗き込んだ。
○○「これ、レモネードです。運動後にちょうどいいと思って」
アインツ「飲んでいいか?」
○○「どうぞ」
ゴクゴクと喉を鳴らし、アインツさんがレモネードを飲む。
彼のたくましい喉仏に、つい目がいってしまって……
その仕草に、なぜだかちょっとドキドキする。
アインツ「これうまいな! 疲れが一気に吹き飛んだ!」
○○「よかった!」
うまいという言葉に、顔が綻ぶ。
アインツ「優しいな、オマエ。 ありがとな! ○○!」
アインツさんの大きな手が私の頭をクシャリと撫でる。
○○「っ……!」
アインツ「オマエと出会えてよかった!」
○○「おっ、大袈裟です……」
アインツ「そうか?」
アインツさんが笑い出すと、私の胸に温かさが広がっていく。
(何でだろう……)
(さっきから胸がなんだか、くすぐったい……)
何日か経つと、アインツさんのお友達も加わり、練習する声は賑やかになっていった。
(もうすぐ競技会か……)
最初の頃から一層、アインツさんの声も熱を帯びている。
そんな彼をつい目で追ってしまう。
○○「差し入れです」
彼らの練習に混ざれない分、私はレモネードを毎日差し入れた。
アインツの友達A「○○ちゃん、ありがとう!」
アインツの友達B「毎日楽しみだよ!」
○○「そういっていただくと、作るかいがあります」
アインツ「おい!」
後ろからアインツさんの長い腕が、私の肩を抱き寄せた。
アインツ「勘違いするなよ! ○○はオレの応援をしてくれてるんだ! オマエ達はそのおまけだ!」
アインツさんに、皆が不満そうに声を上げる。
(アインツさんの手が……熱い……)
力強い腕や、抱き寄せる大きな手をやけに意識してしまう。
アインツの友達「オマエが勝手に言ってるんだろ?」
アインツ「本当の事だ! そうだろ? ○○」
○○「あ……」
アインツさんが私の顔を覗き込む。
(今見られたら……顔が赤いのばれちゃう……)
顔を彼からそっと逸らすと、アインツさんは驚いたように目を見開いて、私から手を離した。
アインツ「わっ悪い! 女の肩を気安く抱いたらダメだよな!」
私の顔の赤さが移ったのか、アインツさんの顔も、真っ赤に染まっていた。
アインツの友達A「ほらみろー。困ってるじゃないかあ」
アインツ「う、うるさいっ!!」
彼の温もりが離れたことが、少し寂しく思えた…―。
そしてあっという間に競技会の日を迎えた…―。