城に着く頃、空は楓色に染まっていた。
アインツさんに連れられて、私は城の門を潜り抜けた。
アインツ「ここがオレの城だ!」
○○「素敵なお城ですね」
窓から差し込む夕日が、城の中まで黄昏色に染め上げている。
アインツの弟「兄さん、また何を騒いでいるんだい?」
アインツ「いい所に来たな! 紹介するぞ! オレを助けてくれた姫だ! こっちはオレの弟だ!」
○○「はっ、はじめまして……」
アインツの弟「ようこそ」
握手を求めて、弟さんが手を差し出してくれる。
その手を取ろうとしたその時…―
○○「アインツ……さん……?」
アインツさんが、私の代わりに弟さんの手を握った。
アインツ「○○の手を触るなんて、10年早いぞ!」
アインツの弟「握手をしようとしただけだよ」
アインツ「そうだ! 弟よ、オマエに頼みがある!」
弟さんの手を握ったまま、アインツさんが歩き出した。
アインツ「庭に行くぞ! 競技会に向けて練習しないといけないからな!」
アインツの弟「競技会って……出るつもりなの!?」
アインツ「当たり前だ! さあ行こうじゃないか!」
驚く弟さんに構わず、アインツさんがどんどん進んでいく。
○○「ちょ……ちょっと待ってください……!」
一人取り残されそうになり、私は慌てて駆け出した。
庭に出ると、アインツさんと弟さんは間をとり向き合った。
アインツの弟「兄さん、本気で競技会に出るつもり?」
アインツ「当然だ! ○○が望んでるからな!」
○○「そうですね」
アインツ「必ず優勝してみせるからな!」
任せろとでも言うように、アインツさんが歯を見せて笑った。
アインツの弟「馬鹿やってないで練習するよ」
ため息交じりに、弟さんが剣の腹で彼の頭を叩く。
アインツ「痛っ! アニキを剣で殴るな!」
アインツの弟「ほら、日が沈むよ」
二人のやり取りに、堪えきれずに笑ってしまう。
私の笑い声に、二人がこちらを振り向いた。
○○「あ、ごめんなさい……」
アインツ「楽しんでくれているならよかった!」
アインツさんが豪快に笑い返してくれた。
(清々しい人だな……)
輝く彼の笑顔に、再び頬をほころばせた。
アインツ「さあ来い! オレはいつでもっ……!」
○○「アインツさん……?」
突然、アインツさんが足を押さえてうずくまった。
アインツ「ひねった……」
○○「だ、大丈夫ですか!?」
アインツ
「これくらいなんともない! それに、ハンデがあるくらいがちょうどいいからな!」
その言葉に、弟さんが海よりも深いため息を吐く。
アインツの弟「準備運動くらいしなよ。もういい年のおっさんなんだから」
アインツ「何を言ってるんだ! オレは永遠の20歳だ!」
練習の邪魔にならないように、笑い声を抑える。
(楽しいな……)
藍色に変わり始めた空に、星が輝き始めていた。