第3話 その食べ物の名は

穏やかな昼下がり、湯治客で賑わう街を散策していると…-。

アルタイル「楽しむ、か。さて、何をしようか……」

アルタイルさんは眉根に皺を寄せながら、真剣に考えを巡らせている。

(アルタイルさんらしいな……)

その姿が微笑ましくて、つい頬を緩ませてしまうと……

アルタイル「すまない、行き先も決めずに街へ出てしまって」

彼が私を見て、申し訳なさそうに苦笑いした。

〇〇「いえ、私はアルタイルさんと一緒に過ごせる時間が嬉しいので」

アルタイル「そ、そうか……」

隣で歩く彼の横顔は、少しだけ赤く染まっていた。

〇〇「あの……難しく考えずに、アルタイルさんのしたいことをしてみたらどうでしょうか? ここでしかできないことが、きっとあると思います」

アルタイル「そうだな。だが、これといって思い浮かばなくてな……」

〇〇「勇利さん達みたいに、自由に楽しめたらいいんですが……」

私も苦笑混じりに言うと、アルタイルさんは目を数度瞬かせる。

アルタイル「確かに。彼らは突然この世界にやって来たのに、満喫していた……ように思う」

ふっと小さな笑い声を漏らすと、アルタイルさんは表情を和らげた。

アルタイル「そうだな。肩の力を抜いて、まずはいろいろ見てみよう。これだと思うものに出会える気がする」

〇〇「……はい!」

私達は微笑み合うと、さっきよりも早足で歩き出した…-。

……

たくさんの店が立ち並ぶ道を歩いていると、ふと行列が目に飛び込んでくる。

アルタイル「あれは……」

行列の先頭へ行ってみると、『カツ丼あります』と書かれた看板があった。

アルタイル「そういえば、勇利達がカツ丼の話をしていたが……いつの間に普及したんだ」

〇〇「すごい人気みたいですね。でも、確かにおいしそう」

店から漂うおいしそうな香りに、鼻をくすぐられる。

アルタイル「せっかくだし、行ってみるか?」

〇〇「はい!」

その匂いに誘われるかのように、私達は列の最後尾へ並んだ…-。

……

しばらくして……やっと入ることができた店の中では、たくさんの人が、カツ丼をおいしそうに口に運んでいた。

アルタイル「これが、カツ丼か……」

湯気の漂う出来立てのカツ丼を、アルタイルさんは珍しそうな顔で見つめている。

〇〇「温かいうちにいただきましょうか」

アルタイル「ああ。いただきます」

〇〇「いただきます」

ひと口食べると、とろりとした卵とカツの肉汁が口の中で絡み合う。

〇〇「……おいしい!」

ふと顔を上げると、アルタイルさんは無言のままカツ丼を食べ続けていた。

〇〇「お口に合いますか?」

アルタイル「ああ、すまない。つい夢中で食べてしまった」

彼がそう言いながら丼に視線を戻し、またカツをおいしそうに口へ運ぶ。

(アルタイルさんが喜んでくれてよかった)

やがてカツ丼を食べ終えた私達は、食後のお茶を飲みながら一息吐く。

アルタイル「お前は、前にいた世界でもカツ丼を食べていたのか?」

〇〇「はい、ご飯におかずをのせて食べる料理はいろいろありました」

私は彼に、さまざまな丼の説明をした。

アルタイル「テンドン、オヤコドン……なるほど。それは特別な場所に行かなくても食べられたのか?」

〇〇「はい、普通の家庭でも作って食べられるものですよ」

アルタイル「そうか……」

思案顔をする彼に、私は…-。

〇〇「もしよろしければ、今度作りましょうか?」

アルタイル「それは楽しみだな! お前の作る手料理は美味いからな。 ……いいな。そういうの」

彼は何かを考えるように視線を宙に向け、ぽつりと声を落とす。

アルタイル「俺の国でとれた野菜を天ぷらにして、アルデバランの国の米を使って、お前の言うテンドンを作るとか。 各国の名産品を提供するのも楽しそうだ」

〇〇「はい!」

アルタイル「皆で同じ物を食べて、食事ができるのはいいことだな」

思いを巡らせるアルタイルさんの表情は、少し切なげに見える。

そこには、東西で仲違いしてしまったガラッシアへの思いが垣間見える気がした。

〇〇「皆で食べたら……もっと楽しいですね」

アルタイル「ああ」

星の国の皆が揃って、笑顔で天丼を食べられる……

そんな日が来ることを願いながら、私はアルタイルさんに笑顔を返すのだった…-。

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