第4話 白い月

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藤目『恋の痛みも、喜びも……私に教えてくれたのは、貴方ですから』

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彼の言葉に、胸が甘く騒ぐ…―。

見つめ合って数秒、不意に藤目さんの顔が近づいた。

藤目「教えてください、私にもっと……」

(……っ)

熱い吐息が唇にぶつかり、大きく胸が打ち鳴る。

藤目「〇〇さん……」

唇が触れそうになった、次の瞬間……

??「先生! こんなところにいたんですか。探しましたよ!」

藤目「……!」

聞こえてきた声に、藤目さんがはっと目を見開いた。

声の主が気になって窓の外を見てみると、以前会ったことがある男性と目が合う。

(出版社の……飛鳥さん、だっけ?)

飛鳥さんは出版社でアシスタントをしている方で……

飛鳥「〇〇さん! ご無沙汰しております」

〇〇「こんにちは、お久しぶりです」

飛鳥「今、上に行きますので! 先生、逃げないでください、お願いします!」

飛鳥さんはそれだけ言い残し、目の前から消えてしまった。

藤目「まずいですね。今捕まると……」

(もしかして、締め切りが近いのかな?)

藤目さんは締め切りをよく破るらしく、以前編集者の方を困らせていたことを思い出す。

藤目「〇〇さん、逃げましょう」

手を取って部屋を出ようとする藤目さんに、私は……

〇〇「でも……いいんですか? 飛鳥さんも困っているみたいだし……」

藤目「ああ、叱られてしまいました。 でも、貴方に叱られるのは悪い気はしませんね」

楽しげに笑う藤目さんの声に、廊下を駆けてくる足音が重なり。

藤目「あ……」

飛鳥「よかった……〇〇さん、引き留めてくれてありがとうございます」

〇〇「いえ、私は……」

藤目「捕まってしまいましたか……」

飛鳥「先生、本当にお願いします……もう大幅に締め切りは過ぎてるんです」

まるで藤目さんにすがるような、焦った声で飛鳥さんは訴える。

藤目「途中までは書けてるんですけどね。 で、式典の準備で慌ただしくなり、筆が止まっていたんです。 あとは最後だけなんですが、どうしても納得がいく形に書けなくて……」

飛鳥「お忙しいと思い引き延ばしましたが、式典を終えた以上、すぐに執筆に入っていただかないと……!」

(そんな状況だったなんて……)

〇〇「大変な時だと知らなくて、藤目さんと出かけてしまってすみませんでした」

飛鳥「いえ、とんでもない! 私こそすみません。どうしてもこれ以上締め切りが調整できず……」

(藤目さんの小説を待っている人もたくさんいるんだよね)

そう思って藤目さんを見上げると、彼が苦笑する。

藤目「〇〇さん、招待したのに申し訳ないんですが……」

〇〇「藤目さんの小説を待っている人のためにも、完成させてください」

藤目「ありがとうございます」

二人と共に外へ出ると、藤目さんが私を振り返る。

藤目「東雲には、いつまでいらっしゃいますか?」

〇〇「まだしばらくは……」

藤目「書き上がったら会いに行きますので、待っていてください」

藤目さんの執筆が終わったら会う約束をして、私は一人、宿へと帰る。

(あ……月だ。もう見えるなんて)

日が沈み始めた空には、うっすらと白い月が浮かんでいた…-。

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