第4話 胸の奥にあるもの

流れ星に乗り、シュテルさんと次に降り立った星は…―。

(すごく賑やか)

其処此処で陽気な音楽が流れ、美しく着飾った人々が踊っている。

シュテル「ここでは、祭りが盛んなんだ。毎日意味もなく祭りをしている」

○○「そうなんですか……何だか夢の中にいるみたい」

(夜空のどこかで、毎晩こんなパーティーが開かれていたなんて)

楽しそうなお祭りの様子を眺めていると……

シュテル「……危ない」

○○「え?」

突然、シュテルさんに手を引かれた。

私がいた場所を、楽団が音楽を奏でながら通り過ぎていく。

○○「す、すみません」

シュテルさんの胸に頬を寄せる形になり、突然のことに心臓が大きく音を立てた。

シュテル「……君は、子供みたいだな。すぐに夢中になって、周りが見えなくなる」

○○「ごめんなさい……」

シュテルさんは、そう言いながらも人通りの多い道側へとまわってくれた。

(優しい……)

胸の高鳴りを押さえようと、胸に手を当てた時……

シュテル「だが、馬鹿みたいに呆けている君の顔を見るのも、なかなか楽しいものだ」

(馬鹿みたいって……)

顔が赤くなるのがわかる。話題を変えようと、必死に頭を巡らせた。

○○「えっと……シュテルさんは、小さい頃どんな子だったんですか?」

シュテル「どんなって?」

○○「えっと、どんなことが好きでしたか?」

シュテル「君はどうだった?」

○○「近所を冒険したりしていたような気がします」

シュテル「冒険か。結構やんちゃだったのかな」

シュテルさんは、賑やかな町並みの向こうの星空を見つめた。

シュテル「楽しそうだ……僕は、遊んだ記憶はほとんどない」

○○「え?」

シュテル「ずっとベットにいた。体が弱かったから、唯一の楽しみは学問だった。 何の役にも立たないばかりか、生死を彷徨っては母を泣かせるだけの存在だった」

○○「そんな……」

シュテル「大人になって、初めて王宮を出て、人の願いを叶えた時は嬉しかったよ。 願いを叶えて、人が笑ってくれた時、初めて生きていると思えた」

(だから、願いを叶えた後、あんなに嬉しそうに笑っていたんだ……)

彼の表情はまるで澄んだ水のようで、私の胸を締め付けた。

返す言葉を探していると……

街人「さあお嬢さん、次はあなたの番だ!」

○○「え?」

街の人に声をかけられ、強引に椅子に座らせられる。

シュテル「おい、何を……」

街人「何って、メイクアップとスタイリングサービスだよ! パーティーでは、おめかししなくちゃあ」

○○「あの、私は…―」

断る隙もなく、あっという間にお化粧が進められ、コートの上からドレスローブを羽織らされる。

シュテル「……」

シュテルさんは、止めてくれるでもなく、どこか楽しげに様子を見ていた。

しばらくして、お化粧とスタイリングが仕上がると……

街人「さあ、できたよ!べっぴんべっぴん!なあ、兄さんもそう思うだろ?」

鏡を見ると、そこに映っていたのは、真っ赤なチークに、きつい口紅をつけ、滑稽なローブを着た私。

どこからどう見ても……

(怖い!)

シュテル「……っ」

シュテルさんを見ると、口元を押さえ、小さく震えている。

街人「べっぴんになり過ぎて口もきけねえってか? ま、仲良くやんな」

街の人が去って行くと……

シュテル「……っはは!!」

シュテルさんが、大きな笑い声を上げる。

シュテル「ははは!」

はじめて聞く彼の笑い声に、胸が甘く締め付けられる。

けれどもあまりに恥ずかしく、いますぐ消えてしまいたいような気持ちでいると……

シュテル「見せて」

ひとしきり笑い終えたシュテルさんが、目の端に涙を浮かべて私の顎をそっと引き上げる。

シュテル「……やってくれるね。ある意味、天才だ」

(恥ずかしい……!)

○○「私、落としてきます」

顔を背けようとすると、シュテルさんは私の顎をつまむ指に力を入れる。

シュテル「いいから」

シュテルさんは、ハンカチを取り出してそっと口紅やチークを拭ってくれた。

そして、後ろに回り、ローブのリボンを解いてくれる。

○○「あ、ありがとうございます……」

シュテル「もっと、あのままでいてくれても良かったんだけど、まあ、君には……このほうが似合うかな」

そう言って、シュテルさんが流れ星を生み、そっと私の首筋をなぞり……

シュテル「……君が好きだと言った、花だ」

○○「え……?」

胸元を見ると、繊細な金細工でできた花のネックレスが下がっている。

シュテル「花は枯れるけど、これなら……」

○○「綺麗……!で、でも、いただく訳には……」

シュテル「気に入らないか?」

○○「いえ、あんまり綺麗で……」

(なんだか申し訳ない)

シュテル「なら、いい。つけていろ」

シュテルさんが、優しく目を細める。

(優しい瞳……)

そのことが嬉しくて、笑顔がこぼれた。

そんな私を見て、彼は目を細め、そして……

○○「……っ!」

ネックレスを指ですくい、そっと唇を落とした。

突然のことに、息が止まりそうになる。

胸が高鳴り、口をきくことも出来ずにいると……

シュテル「このままダンスと言いたいところだけれど……帰ろうか。 久しぶりにあんなに笑ったら、少し……」

○○「大丈夫ですか!?」

思わず触れた彼の手はさっきよりもずっと冷たくて、私は思わず息を飲む。

シュテル「メテオベールの城へ」

シュテルさんは、真っ青な顔で星に乗り、行き先を告げるなり倒れてしまった。

○○「シュテルさん!」

苦しそうな吐息が聞こえる。

星々の中を飛ぶ時間が、無情なほどに長く感じられた…―。

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