太陽最終話 星空の下であなたと

足湯に近づくと、中から人々の賑やかな声が聞こえてくる…-。

アルタイル「はぐれないようにな」

〇〇「はい」

アルタイルさんに手を掴まれて、私達は湯治客の間を縫って歩く。

人とぶつからないよう気遣って歩いてくれる彼に、胸が小さく弾んでいた。

アルタイル「あっちの方がゆっくりできそうだ」

いくつかある足湯に中から、彼は私を空いている場所へと連れて行ってくれる。

アルタイル「いい場所だな」

〇〇「そうですね」

私達は隣り合って座り、お湯に足を浸けた。

(気持ちいいな……)

想像していたよりも熱いお湯が、かじかんでいた指先をじんわりと温めてくれる。

アルタイル「ふう……温まるな」

〇〇「足湯って、こんなに気持ちいいんですね」

(アルタイルさんと一緒だから……余計にそう思うのかな)

そのことを口にしようとしたけれど、恥ずかしさに邪魔をされてしまった。

けれど…―。

アルタイル「ああ。お湯の効能もあるかもしれないが……お前と一緒だからそう思うのかもしれないな」

(私と……同じことを)

気持ちが通じ合っていることに、嬉しさで胸がいっぱいになる。

幸せを感じていると、アルタイルさんがふと表情を引きしめた。

アルタイル「廻天に来て気づいたことは、他にもある」

〇〇「気づいたこと、ですか?」

アルタイル「ああ。いろんな人と騒いだり笑ったりしてすごく楽しかったし、それに……。 遠慮しないで、本音をぶつけあっている勇利達を見ていて、俺もそうなりたいと思った」

月明かりが、アルタイルさんの端正な顔に濃い陰影を落としている。

凛々しくも美しい表情に、私は思わず息を呑んだ。

〇〇「それは……ベガさん達とのことですか?」

アルタイル「ああ。ヘラクレスやデネブに、もう俺達のことで心を砕いてほしくない。 国の事情から、互いに思いを口にできなかったり、言葉を選んだりすることもあったが……。 俺達の間ではそれを失くしたい」

〇〇「……はい」

力強さをにじませる彼の言葉を受け止めたくて、私はじっと耳を傾けた。

アルタイル「それはきっと簡単なことではないだろう。だが……。 彼らが自分の人生を賭けて、スケートに愛と情熱を持って取り組んでいるように。 俺ももっと王子として頑張らないとな」

(アルタイルさんは、いつでも国のことを考えてる……)

その姿勢に、私は心を打たれていた。

すると…-。

アルタイル「……! すまない。今日はゆっくり休むと言っていたのに、こんな話を……」

はっと目を見開いた後、彼は気まずそうな顔をする。

さっきから一転、かわいいとさえ思える表情が愛おしくて……

(こういうところ、すごく好きだな)

〇〇「いえ。どんな時も国のことを大切にしているアルタイルさんが、私は好きですから」

アルタイル「〇〇……」

翡翠色の瞳がまっすぐに私へと向けられた、次の瞬間……

大きな手が優しく私の頭を抱き寄せ、彼の逞しい肩に身を預けた。

〇〇「……っ」

アルタイル「……ありがとう」

彼の熱い吐息が、ふわりと私の髪を撫でる。

アルタイル「そう言ってくれるお前のこと、俺も好きだ。 でも、この後の時間はお前のことだけを考える時間にするよ」

〇〇「!」

アルタイル「……俺に、お前の時間をくれないか?」

〇〇「アルタイルさん……」

はいという言葉の代わりに、私は小さく頷いた。

彼の温もりを直に感じながら、嬉しさで頬が熱くなる。

アルタイル「小さいな、お前の体は」

確かめるように、彼は私の頭を撫でていく。

アルタイル「でも……俺にとって、お前の存在はすごく大きい。 いつの間にか、そうなっていた。 お前といると穏やかな気持ちになれる。もっとお前と一緒にいたいと思う。 お前と過ごすひとときが、大切で仕方ないんだ」

(……そんなふうに思っていてくれたなんて)

〇〇「はい。私も……。 私にとっても、アルタイルさんと一緒にいられる時間が一番、心が安らいで……大切です。 アルタイルさんの人を大切にする気持ちや優しさに、私は支えられているんだと思います」

アルタイル「〇〇……」

頭を撫でてくれていた手が止まり、不意に沈黙が訪れる。

不思議に思って顔を上げると、アルタイルさんが複雑そうな顔で私を見つめた。

アルタイル「参ったな。俺はお前が思うほど優しい男でもないんだぞ」

〇〇「え……」

アルタイル「いや……なんでもない。お前が好きって言っただけだ」

柔らかな笑みを浮かべた彼の手が、そっと私の頬に添えられる。

アルタイル「好きだ……〇〇」

さらに力強く抱き寄せられ、アルタイルさんの胸に顔を預けると……力強い鼓動が聞こえてきた。

(ずっと……このままでいたい)

顔を上げると、私を見下ろす翡翠色の瞳と視線が絡み合う。

彼の肩越しに流れゆく星に、少しでも長く一緒にいられるようにと願いを込めながら……

これからを誓い合うように、私達はそっと唇を重ねたのだった…-。

おわり。

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