太陽最終話 食事の後は……

空腹もあってか、肩を落としたネペンテスさんが力なくお茶をすする。

その様子もかわいくもあり可哀想でもあり、私は彼に声をかけずにはいられなかった。

〇〇「あの、ネペンテスさん」

ネペンテス「……なんでしょうか」

〇〇「お腹がすいたまま待つ時間も、食事の醍醐味じゃないですか? その時の感情や、その場の雰囲気……。 誰と食べるかによっても、食事のおいしさは変わると思いますよ」

元気になってほしくて笑顔で話しかけると、彼がぱちりと目を瞬かせる。

ネペンテス「なるほど。それも一理ありますね……」

けれど、やっぱりすぐにうなだれてしまって……

ネペンテス「しかし、この空腹は収まりそうにありません。 お茶菓子の代わりに、あなた様をつまみ食いしてもいいですか?」

(えっ……?)

隣り合って座った状態で口を寄せられ、至近距離で囁かれる。

次の瞬間、お茶を持つ手を撫でられてしまい、頬が一気に熱くなった。

〇〇「ネ、ネペンテスさん……!」

(こんなにたくさん、人がいるところで……!)

ネペンテスさんが甘い香りを振りまきながら、腰にまで手を回そうとする。

すると、にわかに他のお客さんもざわめき始めた。

客1「あら、なんだかいい匂い……」

客2「花の香りかな? 春らしくて風流だね」

幸いにもお客さんはうっとりと舞い踊る桜の影を見つめていて、私はその間に、なんとか体に巻きついた腕を振り払った。

〇〇「い、今は駄目です! ネペンテスさん!」

その言葉に、ネペンテスさんがようやく私から離れてくれる。

ただ、その口元には妖しげな笑みが浮かんでいた。

ネペンテス「わかりました。今は、私も我慢します。 スイーツをいただいた後、あなた様をゆっくりと堪能するとしましょう」

(そ、そういう意味じゃなくて……)

心の中でそうつぶやいたものの……

私は周りの目もあって、黙ってお茶を口にするしかできないのだった…-。

……

しばらくしてお茶会が終わり、桜吹雪の舞い散る花見席に通される。

そこに店員さんが持って来てくれたものは……

(あ、やっぱり……)

それは予想通り、元の世界でも馴染みのあった『桜餅』だった。

ネペンテス「この餅を包んでいるのは、桜の葉ですね」

隣のネペンテスさんが、興味深そうに桜餅を見つめている。

(ネペンテスさん、大丈夫かな)

(桜は食材として魅力がない、って言ってたけど)

昼間に聞いた言葉を思い出し、不安が込み上げる。

ネペンテス「これは……」

けれどネペンテスさんは桜餅を一口食べると、満足そうに頬を緩めた。

ネペンテス「華やかで荘厳で……舞い踊る桜のような豊かな味ですね」

(よかった、気に入ったみたい)

そっと胸を撫で下ろすと、穏やかな微笑みが私に向けられた。

ネペンテス「なるほど、私にも少しわかったかもしれません。 あなた様の言った、あの言葉の意味が」

〇〇「あの言葉……?」

―――――

〇〇『その時の感情や、その場の雰囲気……。 誰と食べるかによっても、食事のおいしさは変わると思いますよ』

―――――

(ネペンテスさん……)

彼に伝わったのが嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。

すると、ネペンテスさんは瞳に情熱的な色を湛えて、私に迫ってきた。

〇〇「あ、あの……?」

ネペンテス「あなた様の価値は……やはり計り知れない」

ネペンテスさんは、そう言うや否や…-。

私の体を軽々と抱き上げて、自分の膝の上に座らせた。

(っ……)

とっさに身じろぎをするけれど、しっかりと腰に腕を絡められてしまう。

ネペンテス「待った時間の長さもありますが……。 このスイーツが、より甘く美味しく感じるのは、きっと隣にあなた様がいるからです」

力強くそう告げられ、心臓が大きく跳ねる。

〇〇「そう……でしょうか」

恥ずかしさにうつむくと、それを許さないかのように、指で頬を抑えられてしまった。

ネペンテス「先ほどはお預けを食らいましたが……。 ご存知の通り……私、好きなものはすぐに食べたい派なのです」

〇〇「!」

艶めいた声が耳元で響き、私の心を揺さぶってくる。

彼の吐息が顔にかかり、ぞくりと肌が粟立って……

ネペンテス「桜をも美味にする〇〇様の味……どうか堪能させてください」

〇〇「ま、待ってくださ…-」

ネペンテス「いいえ。これ以上はもう待てません。 もっと五感で、深くまで、あなた様を味わわせてください」

艶を帯びた声と吐息が体中を駆け巡り、力が抜けていく。

やがて熱を帯びた舌がゆっくりと、私の首筋を舐め上げた。

〇〇「……っ」

体に甘い痺れが走り、吐息がこぼれる。

ネペンテス「ああ……最高です」

ネペンテスさんが愛おしそうに、私に頬を擦り寄せる。

(抗えない……)

どこまでも甘い香りに、心が溶かされていく……

舞い踊る桜の花びらをぼんやりと見つめながら、私はネペンテスさんに深くもたれかかり、体を預けたのだった…-。

おわり。

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