太陽最終話 肩越しの木漏れ日

お兄様に手を引かれながら、何度も後ろを振り返る。

(レイスさん……!)

庭にさしかかったころ…-。

レイス「待て」

息を切らして、レイスさんがヴァイオリンを手にしたまま、私達を追いかけてきた。

レイス「彼女に、触れるな」

レイスさんを一瞥し、お兄様はそのまま私の手を引こうとする。

レイス「触れるなと言ってるんだ!」

低くよく通る声でそう言うと、レイスさんは、お兄様の手から私の手を奪った。

レイスの兄「無礼者! お前など、絵や音楽にうつつを抜かし、なんの役にも立たない人間だ! こんな時くらい、国の安寧のために協力できないのか!」

怒鳴るお兄様から隠すように、レイスさんは私を背に隠す。

レイスの兄「……なんだその目は」

レイス「俺のことは、なんと言ってもかまわないし、どう扱ってもいい。 でも、〇〇を巻き込むことは許さない」

〇〇「……!」

レイス「彼女の目は、綺麗なものを見るためにある。 彼女の耳は、美しい音を聴くためにあるんだ」

視界を覆うレイスさんの背中がまぶしい…-。

レイスの兄「何を言っている! 綺麗なもの? 美しい音? そんなものがなんの役に立つ? 姫だって、そんなものよりも豊かな国を見たいはずだ」

―――――

レイス『俺……役立たずな王子って、思われてるんだ』

―――――

レイスさんの言葉を思い出して、私は気づくと手をぎゅっと握りしめていた。

〇〇「豊かさって……」

レイスの兄「え?」

〇〇「豊かさって、なんですか?」

―――――

レイス『待っててね。皆があんまり楽しそうだから、もう一曲だけ』

レイス『夕暮れ時に寝そべってたら、木漏れ日があんまり綺麗で』

―――――

〇〇「レイスさんの音楽で、本当に楽しそうに過ごす人達を見ました。 木漏れ日があんなに綺麗だっていうことも、初めて知ったんです」

レイスの兄「何をおっしゃって…-」

〇〇「軍事や外交で国を強く豊かにすることは、大切なことなんだろうなって思います。 でも……レイスさんの音楽や絵画は、人を笑顔にします。 どんな人でも笑顔にできます。 それって、人を豊かで幸せにしているっていうことなんじゃないでしょうか」

言い終えると、辺りには耳を刺す沈黙が流れる。

レイス「〇〇……」

レイスの兄「……失礼」

やがて大きくため息を吐いて、お兄様が去っていった。

レイスさんが、私の肩にそっと触れる。

(私……!)

急に恥ずかしくなって、彼に背を向けようとしたけれど……

(あれ……?)

レイスさんが、震えていることに気がつく。

〇〇「レイスさん……?」

レイス「……っ」

レイスさんは、私に背を向けて、自分の肩を抱きしめる。

そんな彼を前に、私の腕は、自然と彼を抱きしめていた。

レイス「……ありがとう。 芸術は、皆を豊かにできるかな?」

彼が、震える声でそう尋ねる。

〇〇「はい……きっと」

そう答えると、レイスさんがそっと私の方を向いて、にっこりと笑いかけた。

レイス「君のおかげで勇気が湧いた。 外交や軍事のことは苦手だけど。 君がそう言ってくれるなら……俺は、俺のやり方でやってみるよ。 下らない理由で君が連れ去られるなんて、耐えられないし」

〇〇「レイスさん……」

柔らかな風が、レイスさんの髪をふわりと揺らした。

レイス「〇〇……」

彼の親指が、私の唇に触れて…-。

レイス「この美しい唇が……美しい言葉を紡ぎ続けてくれるように。 君を綺麗なもので満たしつづけたい」

目を閉じる間もなく…-。

彼は、風のように私の唇を奪った。

〇〇「……っ」

レイスさんは、私をぎゅっと抱きしめる。

レイス「〇〇……」

彼の肩越しに、木漏れ日の光がちらちらと輝いている。

美しいその景色を閉じ込めるように、私はそっと瞳を閉じた…-。

おわり。

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