太陽SS 柔らかな果実

い草の匂いが青く香る、厳粛な雰囲気の和室にて…-。

〇〇「その時の感情や、その場の雰囲気……。 誰と食べるかによっても、食事のおいしさは変わると思いますよ」

ネペンテス「なるほど。それも一理ありますね……」

(……〇〇様のおっしゃることも、理解できます)

けれど……まだ見ぬ美食をお預けにされた私の胸中は穏やかでなく、〇〇様の言葉すらすぐに儚く消えていった。

(もう我慢の限界です……!)

私は渇望のままに、隣に座る〇〇様の茶碗を持つ手に指を伸ばし、身を寄せた。

〇〇「ネ、ネペンテスさん……!」

頬を朱に染めた彼女が、周囲には聞こえないように抗議の声を上げる。

(ああ、そんな美味しそうな表情をされては……)

(今すぐ食べてくれと言わんばかりではありませんか)

獲物を捕らえるための香りを放ち、〇〇様の動きを鈍らせる。

すると、周囲の客達もその香りに反応し始めた。

客1「あら、なんだかいい匂い……」

客2「花の香りかな? 春らしくて風流だね」

彼らの言葉に、〇〇様の表情がはっとしたものに変わり、しっかりと巻きついたはずの腕を振り解かれてしまう。

〇〇「い、今は駄目です! ネペンテスさん!」

(なるほど、『今は』ですか……)

相変わらず食欲は満たされないものの、おそらく無意識に放たれたその言葉に、何やら嬉しさが込み上げて来る。

ネペンテス「わかりました。今は、私も我慢します。 スイーツをいただいた後、あなた様をゆっくりと堪能するとしましょう」

(きっとスイーツの後味も相まって、最高の美食が堪能できるに違いありません……!)

すっかり無言になってしまった〇〇様の隣で、私はその時を今か今かと待ち望んだのだった…-。

……

夜の闇に、桜の花びらがぼんやりと白く浮かび上がる…-。

ようやくスイーツを受け取った私は、早速それを口に入れた。

ネペンテス「これは……」

(ほのかな桜の香り、舌に溶ける甘味と、葉から伝わる絶妙な塩加減……)

(ふむ。悪くはありませんね)

ネペンテス「華やかで荘厳で……舞い踊る桜のような豊かな味ですね」

その言葉に、私の様子をうかがっていた〇〇様も頬を緩ませる。

彼女の笑みが、私の口内を甘美に刺激した。

(……味わいが、変わった)

(いや、そもそもこのスイーツは冷静になってみればさほど美味ではない)

(それがこのように美味しく感じられるのは……)

思考の果てに合点がいって、私はゆるりと笑みを浮かべる。

ネペンテス「なるほど、私にも少しわかったかもしれません。 あなた様が言った、あの言葉の意味が」

〇〇「あの言葉……?」

(その時にしか出会えない感情や雰囲気……)

(何より、大切な方と共に味わうことこそ、美味しさの秘訣なのですね)

また一つ美食の道を〇〇様に教えられてしまった。

ネペンテス「あなた様の価値は……やはり計り知れない」

(ですから……手放すことはできない)

そう痛感した私は…-。

彼女の体を捕らえるように抱き上げ、自らの膝の上に座らせた。

逃げようと身じろぎする〇〇様に、私はしっかりと自分の腕を絡める。

ネペンテス「待った時間の長さもありますが……。 このスイーツが、より甘く美味しく感じるのは、きっと隣にあなた様がいるからです」

〇〇「そう……でしょうか」

恥ずかしそうにうつむいた彼女の白い頬に指を添え、上を向かせる。

艶やかに輝く肌が、私の舌を甘く激しく刺激した。

(まだ味わってもないのに、この感覚……たまりません)

ネペンテス「先ほどはお預けを食らいましたが……。 ご存知の通り……私、好きなものはすぐに食べたい派なのです」

〇〇「!」

なお抵抗する〇〇様を押さえ、彼女に甘い吐息を吹きかける。

ネペンテス「もっと五感で、深くまで、あなた様を味わわせてください」

〇〇様の体からも徐々に力が抜けていき……

私は彼女の白い首筋をあらわにすると、欲望のままに舌で舐め上げた。

(なんと芳醇な……とろけるような舌触り……)

〇〇「……っ」

甘い声が聴覚を刺激し、体が熱くなってくる。

ネペンテス「ああ……最高です」

誘われるままに、柔らかな頬に顔を擦り寄せる。

(今回の今までの苦労は……この時のためにあったのでしょう)

夜風に吹かれて、桜の花びらが激しく舞い散る中……

私は甘い果実を食むように、そっと〇〇様に口づけたのだった…-。

おわり。

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