太陽最終話 小太刀の矛先

どうにか国王様から討伐隊参加の許可をもらうことができ…

カノトさんと私は、護衛の従者さん数名と共に、森を奥へと進んでいた。

カノト「ありがとう、◯◯。説得できたの、きみのおかげ」

ふわりと微笑むカノトさんに、私は首を横に振る。

◯◯「カノトさんの必死の思いが伝わったからですよ。 ……あの子に、会いたいんですよね?」

従者さん達に聞こえないように、私達は小声で話す。

カノト「うん……やっぱり、きみはわかってた」

◯◯「私も同じ気持ちですから。討伐隊に倒されてしまうなんて、嫌です」

カノト「うん……」

カノトさんは、自分の腰に差した小太刀にちらりと視線を向ける。

それは、物の怪を退治するために使用する、伝説の武器だった。

(本当にこれを使わなきゃいけないのかな……?)

そう思えば、ちくりと胸が痛んだ。

カノト「……この辺りにいたんだったよね?」

◯◯「……はい。目撃情報があったらしいです」

カノト「それじゃあ、そろそろ…ー」

その時、草の揺れる音が聞こえて、私達は足を止めた。

従者「来ましたね」

にわかに緊張感が走る。

従者「カノト様、どうか安全な場所へ……」

従者さんがカノトさんをかばうように前に出るけれど……

カノト「僕が、やる」

カノトさんが強い瞳でそう言った。

従者「しかし……」

カノト「僕は、王子だから」

覚悟を決めたその様子に、従者さんが一瞬怯む。

カノト「大丈夫。僕を信じて。 物の怪……たくさんの人を怖がる。また逃げる……だから、僕ひとりで」

鬼気迫るようなカノトさんの表情を見て、従者さん達は後退した。

従者「かしこまりました。では、すぐ近くに控えておりますので……」

カノト「うん。ありがとう」

小道に従者さんを待たせ、私とカノトさんは道を進む。

そして……

カノト「あ……」

カノトさんが指さした方を見ると、木の陰からあの座敷童が顔を覗かせていた。

カノト「そこにいたんだ……」

優しく声をかけられて、おずおずとこちらに近づいてくる。

座敷童「……ごめんね、あばれちゃった」

カノト「……うん。きみは、とても危険な物の怪だ」

◯◯「え……?」

カノトさんは強張った声でそう告げると、小太刀の鞘に手をかける。

そのままゆっくりと引き抜き、その切っ先を座敷童に向けた。

◯◯「カノトさん!」

カノト「……僕の役目は、物の怪を倒すこと。 だからきみを……斬るよ」

カノトさんは小太刀を高く振り上げて……

◯◯「…ー!」

私が思わず目を閉ざした次の瞬間…ー。

……小太刀を振り下ろす音が聞こえた。

だけど、座敷童が苦しむような声は聞こえず、そっと目を開く。

すると……

◯◯「……あれ?」

座敷童はびっくりした顔で目を見開いていた。

その足元には、真っ二つになった鞠が落ちている。

カノト「……これを持って帰れば、きみを倒したっていうことも、きっと信じてもらえるから」

壊れた鞠を手に取ると、カノトさんは少し辛そうに微笑んだ。

カノト「ごめんね、大切な鞠だったのに……でも、これしか方法が思いつかなかった」

座敷童「……いいの? たおさなくて、ヘいき?」

カノト「いいんだよ。ヒノト兄が言ってた。時には嘘も大事だ、って。 でも、きみの大事なものを壊しちゃったから……お詫びに、一緒に遊ぼ」

座敷童「……うんっ!」

満面の笑みを浮かべて、座敷童はカノトさんに抱きついた。

国王様への報告を従者さん達にお願いし……

カノトさんと私は見回りのためだと言って、その場に残った。

そして……

座敷童「おにいちゃん、みつけた!」

カノト「見つかっちゃった。今度は、僕が鬼」

私達3人は、森の中でかけっこをしたり、かくれんぼをしたりして遊んだ。

やがて日も暮れた頃、座敷童が少し寂しそうに微笑んだ。

座敷童「ほんとは、ずっといっしょにいたい……。 けど、いっしょにいると、めいわく、かかるから」

カノト「……行っちゃうの?」

座敷童はこくりと頷く。

座敷童「あのね、おにいちゃん、おねえちゃん、とってもとっても、たのしかった!」

手を振る座敷童に向かって、カノトさんも…ー。

カノト「僕もだよ……とてもとても、楽しかった」

座敷童「……またね、ばいばい」

座敷童はくるっと背中を向けて、森の奥へと入って行く。

名残惜しいのか、何度も何度も振り返って、手を振って……

カノト「ばいばい、気をつけてね!」

カノトさんも、大きく手を振ってその背中を見送った。

◯◯「……カノトさん、大丈夫?」

恐る恐る尋ねると、カノトさんは綺麗な顔を寂しげに歪める。

カノト「大丈夫……だと思う。 でもね、しばらくはすごく寂しいと思う」

◯◯「うん。お友達がいなくなっちゃったから……」

カノト「だから、今までよりいっぱい、一緒にいて欲しい」

寂しそうなその笑みに、私の胸も痛みを訴えている。

◯◯「……一緒にいます。カノトさんが寂しくなくなるまで」

座敷童の姿は、どんどん小さくなっていく。

私達はそっと手を繋ぎ、その背中が見えなくなるまで大きく手を振り続けた…一。

おわり。

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