太陽最終話 キミの言葉を

満開に咲き誇る桃の木の下で、桃花祭の宴が始まろうとしている…-。

(すごい人の数……カイネ君、ここで挨拶するんだよね?)

集まった人の数に圧倒され、隣を見ると……

カイネ「……」

身支度を整えて出番を待つカイネ君は、緊張しているのか、顔が少し強張っている。

〇〇「カイネ君、大丈夫?」

心配になって尋ねると、カイネ君のひんやりとした手が私の両手を包み込んだ。

(カイネ君……?)

カイネ君は何度か深呼吸をした後、私の顔をじっと見つめた。

カイネ「やっぱり、宴の直前にキミに会いたいってお願いしてよかった。 大勢の前に出るし、すごく緊張してたんだけど……。 〇〇さんの顔を見たら、ガチガチになってたのがどっかに行っちゃった」

いつの間にか、彼の手には温もりが戻っていた。

(よかった……)

カイネ「ボク、行ってくるね」

カイネ君は笑顔で手を振ると、会場の中央にある舞台へと向かって行く。

背中をぴんと伸ばして歩くその姿は、王子然として、とても頼もしく見える。

(カイネ君、頑張って……)

カイネ君が壇上に立つと、さっきまで賑やかだった会場が静かになり、人々の視線がいっせいにカイネ君へと注がれた。

カイネ「皆さん、今日という良き日にお集まりいただきありがとうございます」

心地よくて優しい彼の声に、皆が耳を傾ける。

カイネ君は会場に舞う桃の花びらをふと見つめて……

カイネ「桃の花のように、女性は優雅で美しい。 男達は女性達に見守られ、支えられているからこそ日々を戦えます……。 健やかなる女の子の成長を願い、そして祝う。また、女性への敬意を忘れずに…-」

凛としたその姿は、いつものかわいらしい少年らしさを感じさせない。

(さっきまで緊張していたのが、嘘みたい)

カイネ「ボクからの挨拶はこれで終わらせていただきます。今日は、皆さん楽しみましょう!」

カイネ君が深くお辞儀をすると、人々から大きな拍手が起こる。

それが合図になったかのように、和やかに宴が始まった。

(カイネ君、すごかったな……)

お酒を飲んだりお菓子を食べたり、舞踏を観たり…―。

桃花祭の宴は、楽しげな笑い声で溢れていた。

その賑やかな様子を眺めながら、私は大きな桃の木の下にあるベンチに腰を下ろす。

(すごい……満開)

カイネ「〇〇さん」

桃の花びらが舞う様子に見とれていると、挨拶回りを終えたらしいカイネ君がやってきた。

〇〇「カイネ君、お疲れ様」

カイネ「あー、緊張した……」

どっと力が抜けたように、カイネ君が私の隣に座る。

カイネ「〇〇さん、ボクの挨拶……どうだった?」

〇〇「すごく格好よかったよ」

思ったままの感想を伝えると、カイネ君が笑顔を見せる。

カイネ「そっか……! よかった……」

カイネ君が不意に見せた大人びた微笑みに、胸が小さく音を立てる。

カイネ「ありがとう。〇〇さんのおかげで、ボク…-」

温かな彼の手がそっと私の手に重ねられたその時、強い風が私達の傍を吹き抜けて…-。

(綺麗……)

風の中でひらひらと舞い踊る桃の花びらに、目を奪われる。

カイネ「その言葉を聞きたかったんだ。 初めてだね、キミから言ってもらえたの」

カイネ君はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。

カイネ「ずっとかわいいままは、嫌だもん。 やっぱり、ボクはキミに格好いいって思われたい」

握る手に、ぎゅっと力が込められる。

目の前にいるのは、いつもの弟のようなカイネ君ではなくて…-。

カイネ「それに、この桃花の国の王子としてきちんと挨拶をしないとって思って。 ……頑張ってよかった!」

彼が微笑む度に、私の胸は高鳴っていく。

カイネ「それと、これ!」

カイネ君は、私の手のひらにそっと桃を乗せた。

〇〇「これ、もしかして……」

カイネ君は気恥ずかしそうに、髪の毛をくしゃりと掻き上げる。

カイネ「そう。結構森の奥までいかないと百福の桃はなくって……今日は待たせちゃってごめんね。 でもボク、どうしても〇〇さんにこの桃を渡したかったから」

〇〇「カイネ君……ありがとう」

彼からもらった百福の桃を、私はそっと手のひらに包み込んだ。

カイネ「今回は挨拶だけだったけど、もっと王子としていろんなことをできるようになるから……。 だから、また桃花祭に遊びに来てね」

暖かな風が、頬を優しく撫でる。

その風に乗って桃の花びらが舞う中、未来の約束を胸に、私は彼に微笑みを返すのだった…-。

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