太陽SS とびっきりの笑顔

足早に歩くオレの頬を、冷たい風が撫でていく。

頬を膨らませたオレを、〇〇ちゃんが慌てて追いかけて来た。

〇〇「ま、待って……!」

―――――

マーチア『君はさ、愛の日に好きって言いたい人、いるの? ねえ、教えて?』

―――――

あの時見た、〇〇ちゃんの強張った顔が脳裏をかすめる。

(〇〇ちゃんが愛を伝えたい相手は、オレじゃない)

(相手はオレに決まってるって思ってたのにさ……格好悪い)

もやもやした気持ちが邪魔をして、〇〇ちゃんの方を見ることができない。

その時、ふと見覚えのあるショーウィンドウが目に入った。

そこは、〇〇ちゃんと一緒に訪れた食器店で……

(ここに来た時も、オレよりもティーカップに夢中だったし……)

また一つ、苦い記憶が蘇る。

目を背けようとした時、ショーウィンドウに映った自分の顔を見てぎょっとした。

(何!? この顔!)

(紅茶に間違えて塩入れちゃった時みたいに……しょっぱい!!)

マーチア「……」

(オレ、こんな顔で〇〇ちゃんと一緒にいたの?)

立ち止まったオレの顔を、〇〇ちゃんがそっと覗き込んでくる。

〇〇ちゃんの眉は、オレを気遣うように下がってしまっていて……

(こんな顔、させたかったわけじゃない)

(こんなのすっごいダメじゃん! 〇〇ちゃんには、笑っててほしいのに)

(オレは〇〇ちゃんの笑顔が好きなのに)

考えを巡らせていると、ショーウィンドウの向こう側に置かれたティーカップが目に入った。

(挽回しないと)

マーチア「ちょっと待ってて」

オレは〇〇ちゃんにそう告げて、急いで食器店へと足を踏み入れた。

食器で埋め尽くされた棚の隙間から、そっと窓の外を見る。

外では、〇〇ちゃんが何かを考え込むように、オレのことを待っていた。

(寂しそうな顔してる……)

たとえ、彼女の大切な人が自分じゃなくても……

(待ってて。オレが君を笑顔にしてあげるから)

決意を胸に、目的のものを探して店内を見回すと……

マーチア「あ、あった!」

宝石があしらわれた真っ白なカップが、先ほどと同じ場所に置かれていた。

(あの時〇〇ちゃんの視線を独り占めしたカップ……)

(あの時はムカついたけど)

窓から見える〇〇ちゃんは、まだ何かを考え込んでいるように見える。

マーチア「これでお茶会をしたら、〇〇ちゃんは笑ってくれるかな?」

少しだけ不安になってそうつぶやいた時、店主が声をかけてきた。

店主「もしかして、先ほどティーカップで手品をしていたお客様ですか?」

マーチア「え? うん、そうだけど」

店主「あれ、素敵でしたね! お連れ様も、すごく喜んでらっしゃって」

店主の言葉に、オレは思わず目を瞬かせた。

マーチア「……そんなに喜んでた?」

店主「ええ! それはそれは楽しそうでしたよ」

マーチア「……」

オレの頭に、〇〇ちゃんの笑顔が蘇る。

―――――

〇〇『すごい……!』

―――――

マーチア「確かに。ものすっごく嬉しそうだったかも」

(オレの魔法に、目を輝かせてくれてた。とびっきりのかわいい笑顔でさ)

(……うん。オレは、あの笑顔が一番見たいんだ)

気づけば、手にしていたカップを両手でしっかりと包み込んでいた。

(それに……)

(思いっきり楽しんでもらえたら、オレに振り向いてくれるかもしれないもんね!)

カップを握ったまま、オレは勢いよく顔を上げる。

マーチア「よし、決めた! このカップで、お腹が痛くなるくらい笑っちゃうような、オモシロおっかしいお茶会を開く!」

大声を上げたオレに、店主は目を丸くした。

マーチア「ねえ。とびっきり豪華なリボンをかけて! なんてったって、だーい好きな女の子への贈り物なんだから」

心地よい緊張感を覚えながらも、胸が期待に騒ぎ始めている。

(ねえ、〇〇ちゃん)

(君のこと、もしめいっぱい楽しませてあげることができたら……)

オレの大好きな、〇〇ちゃんの太陽な笑顔を思い浮かべる。

(ちょっとはオレのこと……見てくれるよね?)

オレの頭の中に、彼女を楽しませるアイディアが全速力で駆け巡っていた…-。

おわり。

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