太陽7話 祭りと年越しと……

祭りの本番まで、残り数日になってしまった…―。

(今日も……きっとカノエさんは一人で先に練習してるはず)

私は練習時間の少し前に顔を出すことにした。

まだ朝の気配が残り、少し霧が出ている森のひんやりとした空気の中、やはり、カノエさんは一人で練習を開始していた。

(カノエさん……?)

彼の全身には汗が滲んでおり、見れば脇には脱ぎ捨てられた着物がある。

(もう既に着替えを?一体、どれだけ前から練習していたんだろう……)

近くにいる私にも気づかず、カノエさんは一心に演舞の練習に打ち込んでいる。

(皆に……伝えたい)

(カノエさんの思いを)

そう強く思い、私は踵を返した…―。

……

私は他のメンバーの皆さんに声をかけ、いつもより早く森へ集まってもらった。

男1「もう練習してるのか?」

男2「確かに王子はいつも一番だったが、まさか毎日こんな早くから……?」

集まった人達が、次々に驚きの声を上げていく。

カノエ「お前達……!それに、○○も」

私達に気づいたカノエさんが、動きを止めた。

一同「……」

気まずい沈黙が、場に流れる……

(どうしよう……余計なことをしちゃったのかな)

不安になって、カノエさんの表情をそっとうかがったその時…―。

〇〇「カノエさん、それは?」

彼の手に、紙が一枚握りしめられていた。

カノエ「これは……」

汗で染みがついた紙を広げ、カノエさんが皆に見せる。

男1「これ……」

男2「新しい陣形……?」

紙を見た途端、皆は悟ったように口をつぐんでいった。

(カノエさん……上手くいかなかった陣形を調整しようとして……?)

何回も描き直された跡がある陣形の線は、彼の汗で滲んでしまっていた。

カノエ「……今度の舞台は、今までとは違う新しい形なんだ。 上から見ると正方形ではなく、奥行きの狭いものになっている。 下見に行った時に気づいた。このままでは、全ての観客に良い演舞を見せられないと」

男2「……そんなことが」

カノエ「だから、それに映えるように陣形を組み替えたんだ。だが……」

そこまで言って、カノエさんは表情を歪めた。

カノエ「俺はきちんと説明もしないで……いや、説明をしたとしてもお前たちの負担は変わらなかっただろう。 独りよがりだった。申し訳ないと思っている……」

男1「王子……」

カノエ「直すところは直す。だから、今からでも一緒に全体の陣形練習を頼めるか」

真摯な態度でカノエさんは、みんなに頭を下げた。

男1「……勝手なことを言ってすみませんでした」

男2「申し訳ありません、王子……」

申し合わせしたようにみんながカノエさんに頭を下げる。

カノエ「皆……」

カノエさんが熱い瞳で皆を見渡す。

(カノエさん……)

目頭が熱くなる話の横で、チームの皆も鼻をすする。

男1「やりましょう」

男2「今からでも間に合わせますよ」

カノエ「皆……ああ。間に合わせるぞ」

一同「おおーっ!」

(よかった……カノエさんの思いが伝わったんだ)

嬉しさに頬を緩めていると、不意にカノエさんと目が合った。

カノエ「お前が……皆を連れてきてくれたんだな」

その瞳が、今までにないくらいに優しく細められている。

〇〇「私は…―」

胸が跳ねて、言葉を詰まらせてしまうと……

男1「王子!俺の位置について聞きたいことが!」

早速、新しい陣形を試していたメンバーからカノエさんに声がかかった。

カノエ「ああ!今行く」

カノエさんは私に背を向け、メンバーの方へと歩き出す。

私は一人、鼓動がおさまらない胸にそっと手を当てたのだった…―。

……

それから全体練習が再開される。

毎日夜遅くまで練習は続き、祭りの前日にはどうにか形になった。

暗くなった森をカノエさんが吊るす提灯の明かりを頼りに、一緒に帰る。

カノエ「……○○」

名前を呼ばれ顔を向けると、提灯の明かりに照らされたカノエさんの顔が間近にあった。

カノエ「今日は……ありがとうな。今まで見守ってくれたことも……感謝してる」

〇〇「いえ、私は何も……ただ、見ているだけでした」

カノエ「いいや、助けになった。お前がいたから……だから……」

カノエさんが私の耳元へと口を近づけた。

〇〇「……っ」

カノエ「明日の祭り、どうしてもいい場所で見て欲しいから、お前には特等席を用意した。来てくれるよな」

頬を熱くしながら、私は小さく頷く。

するとカノエさんは、口元に嬉しそうな……柔らかな笑みを浮かべた。

(こんな顔もするんだ……)

ドキドキと高鳴る胸は熱を持つほどの高揚感に溢れていた…―。

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