太陽最終話 アリスじゃなくても

厳かに立ち上がった女王様に、その場が重い緊張に支配されている。

ハーツ「母上……」

ぎゅっと、ハーツ君が私の手を握りしめてくれる。

女王様は、私達に視線を送った後、バルコニーより国民の前に姿を現した。

ハートの女王「静まれ、人々よ! この通り、この女は災いの少女『アリス』ではない。 よって、後日執行されるはずであった処刑は、取りやめとする、以上!」

◯◯「女王様……!」

ハーツ「……!」

女王様の威厳ある言葉に、その場の雰囲気は一変した。

人々は各々に女王様への賛辞の言葉を口にし始める。

ハーツ「本当に……大丈夫なんだよな? もう、◯◯の安全は保障されたって、そう考えていいんだよな!?」

ハートの女王「……ええ、国民はお前の言葉に心を動かされたようですから。 それに……ハーツを目覚めさせてくれた恩を、無碍にするわけにもいきません。 私も少々混乱しておりました。失礼いたしました、◯◯様」

◯◯「いえ……」

女王様はすっと姿勢を正すと、その場から立ち去って行った。

ハーツ「……っ」

見る間に、ハーツ君の顔が喜びに染まっていく。

ハーツ「◯◯、よかった! 本当によかった! !」

◯◯「私…一」

全身に感じていた針のような空気から解放されたせいか、つい膝から力が抜けそうになって…ー。

ハーツ「◯◯っ、大丈夫か!?」

ハーツ君の腕が危ういところで私の腰元を支え、しっかりと抱きとめてくれた。

(心臓がドキドキしてる……)

(怖かったから? それとも……?)

見上げると、ハーツ君の赤い瞳が心配そうに揺れている。

◯◯「ハーツ君……ありがとう」

ハーツ「ああ、もう大丈夫、なんも心配ない……◯◯!」

ハーツ君は震える私の指先を握って名を呼んでくれた。

◯◯「うん……ありがとう」

涙が出そうになるのをこらえて、ハーツ君に微笑んでみせると……

彼が優しく私を抱きしめてくれた。

◯◯「あ……」

ハーツ「よかった……本当に無事で。お前に何かあったら、俺、どうしようかと。 ……◯◯」

◯◯「ハーツ君?」

もう一度、私の名を呼んで、顔を傾けられる。

(心臓がうるさい……)

だけど、彼の私を見る瞳は純粋で優しげな光と喜びに満ちていて……

◯◯「……っ」

次の瞬間、柔らかなものが私の唇に触れた。

ハーツ「もう大丈夫だから……絶対もう怖い目になんて合わせないし、手も離したりするもんか!」

抱擁が深くなり、言葉を紡ぐために一度離された唇が再度重なる。

ハーツ「アリスじゃなくてもいい……◯◯、俺の大切な人になって」

この上なく切ない声で呼びかけられて…ー。

◯◯「……うん、ハーツ君」

ゆっくりと頷くと、ハーツ君の瞳が切なそうに、けれど嬉しそうに細められた。

そして、今度は先ほどよりももっと深い彼のキスが、私の唇に落とされる。

(ハーツ君の心が、アリスじゃなくて私に向けられている……)

そのことに確かな喜びを感じて、私の心にときめきが広がっていく。

ハーツ「◯◯……」

ゆっくりと唇が離れて、私の名を呼ぶと、少しだけ頬を赤くして恥ずかしそうにハーツ君が微笑む。

私達は、もう一度お互いをしっかりと抱きしめ合う。

柔らかな風が吹いて、無数の花びらが舞い上がる中……

バルコニーの外からは一つ、二つと拍手が鳴り響き始めていた…ー。

おわり。

<<太陽7話||太陽SS>>