太陽7話 コイツはアリスじゃない!

重々しい空気が、王座の間を支配している。

◯◯「……っ」

私は、女王様の前で跪かされていた。

衛兵が手にした長槍の金属質な冷たさを首筋に感じ、ぞくりとする。

(怖い……)

恐怖に体を震わせる私を、女王様は厳しい眼差しで見下ろしていた。

ハートの女王「つまり、そなたは『アリス』ではないと言うのですか?」

◯◯「はい……そうです」

私の返事に、女王様は疑わしげに眉をひそめる。

ハートの女王「しかし、その証拠はいったいどこにあるのです? それにハーツはそなたのことを、アリスと呼んでいたではありませんか」

◯◯「……」

(確かに、この場所では証明できるものが何もない……)

どうすることもできずに、うつむき無言でいると、

城に詰めかけた国民達の声が、窓の外から聞こえてきた。

国民1「国の一大事だぞ! 今すぐアリスを処刑しろ!」

国民2「そうだ! でなければまた災いが降りかかるぞ!」

やがて、王座の間に沈黙が訪れる。

ハートの女王「ここはやはり民の不安をこれ以上あおらないためにも……」

◯◯「そんな…… !」

ハートの女王「連れて行きなさい」

衛兵に乱暴に腕を掴まれ、連行されそうになった時…ー。

??「待ってくれ! !」

◯◯「……!?」

(この声は……)

広間の入り口を向くと、そこには……

ハーツ「頼む、母上!! 皆こいつの存在を誤解してるだけなんだ! !」

息を切らしながら、ハーツ君が立っていた。

◯◯「ハーツ君! どうやってここへ…ー」

大股で広間の中心へ歩み出たハーツ君は、私の隣で膝を折った。

ハーツ「ごめん、◯◯……俺が軽はずみなことをしたから」

◯◯「ハーツ君……」

(今、私の名前……初めて呼んでくれた?)

目元に苦しげに皺を寄せて、彼は私の肩を抱き寄せた。

私を強く支えてくれるその手に、心細さから解放されたせいか、涙が出そうになった。

ハートの女王「ハーツ、こんなにも国民の不安が募っているのですよ? 今さらアリスではない、という言葉で、国民は納得しますか?」

ハーツ「……」

射るような視線を女王様に向けて、ハーツ君は私を支えながら一緒に立ち上がった。

そして、バルコニーに出ると、城に押しかけた民衆の前で……

ハーツ「皆、聞いてくれ!」

ハーツ君の姿が国民の前に晒されると同時に、それまでのざわめきが一気に静まった。

ハーツ「俺がこの人をアリスだと言ったのは、彼女が俺にとって運命の人だと感じたからなんだ。 だけど、コイツは……アリスじゃないんだ!」

ハーツ君が、ぎゅっと拳を握りしめ、まっすぐな眼差しを皆に向ける。

ハーツ「コイツはトロイメアのお姫様で、この国に害を与えるような存在じゃない!」

ハーツ君は枯れんばかりに大声を張り上げて、国民に自らの想いを説く。

すると…ー。

国民1「……アリスじゃない……? 本当か……?」

国民2「いや、騙されるな。ハーツ王子は昔からアリスに執心していると聞いている!」

国民3「けど、さっきのハーツ王子……俺には嘘を吐いているようには思えなかった」

ハーツ君の言葉に、国民にざわめきが広がる。

ハーツ「……」

ーーーーー

ハーツ「だから、お前のことだろ? 昔ワンダーメアに現れた少女、アリス。 俺、小さな頃からずっと憧れてて」

ハーツ「俺の目の前に……ずっと憧れてたアリスがいるなんて……」

ーーーーー

(ハーツ君……)

私はハーツ君に歩み寄って、彼の握りしめた手にそっと触れた。

ハーツ「◯◯……」

◯◯「ごめんね……アリスになれなくて」

すると、ハーツ君が私の手をぎゅっと強く握りしめた。

ハーツ「俺の方こそ……本当にごめんな」

そしてもう一度、国民に向かって…ー。

ハーツ「俺は確かに、アリスに憧れを持ってた! それが皆を不安にさせてしまっていたのなら謝る!! でも……。 俺はこの国に災いをもたらしたいわけじゃない、ただコイツと一緒にいたいだけなんだ! だから、信じて欲しい……この魂にかけて、俺は誓う!!」

それは王子としてではなく、一人の少年としての心からの言葉……

国民達「……」

国民達の視線が、ハーツ君に引きつけられている。

そんな中、玉座から女王様が静かに立ち上がった…ー。

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