太陽最終話 星空の下で

夜が訪れても、月の光に照らされて、辺りは明るく輝いていた。

冬の冷気の中を、二人で手を繋ぎ、木の葉が舞うようにくるりくるりとリンクに弧を描く。

グレイシア「この前より全然滑れるようになったな」

◯◯「本当?」

グレイシア「ああ、思ったより器用なんだな……あ」

◯◯「……?」

グレイシア「そういや、名前聞いてなかった。お前なんて言うの?」

(そういえば……)

◯◯「◯◯です」

グレイシア「◯◯……なかなか、いい響きの名前だな」

呼気がきらきらと輝く中で、グレイシア君が微笑む。

◯◯「ありがとう、嬉しい。こんなふうにスケートをして過ごせるなんて思ってもみなかった」

しっかりと支えてくれていた彼の手を離し、一人で滑り出す。

グレイシア「調子に乗るなって……っおい! 」

◯◯「っ!」

次の瞬間、私は氷面にあった小さな窪みに足を取られて……

グレイシア「危ないっ!」

上下が入れ替わっていく視界の隅で、彼が白い指先を伸ばしたのが見えた。

すぐさま大きな衝撃がやってきて、そして……

(え……嘘!)

次の瞬間、私をかばおうとしたグレイシア君を下敷きにする形で、私は彼を押し倒していた。

◯◯「……っ」

グレイシア「……」

お互い言葉すら失い、ただ胸の内側だけが大きく鼓動を響かせる。

(ど、どうしよう……)

焦りと恥じらいに、頬が熱くなって……

グレイシア「……あ」

その時グレイシア君の視線が私の背後、ずっと遠くを見て細められた。

◯◯「どうしたんですか?」

グレイシア「見てみな、空」

グレイシア君は私の肩を抱くようにして、自らの傍らに私を横たえた。

◯◯「わぁ……!」

見上げた空には、漆黒のベールを彩るように、幾千もの星が瞬いていた。

グレイシア「……綺麗だな」

◯◯「はい……」

グレイシア君が私の指を、彼の白く長い指で包み込んだ。

柔らかで落ち着いた温かさで、冷えた指先にじんわりと熱が広がる。

◯◯「すごいですね……こんなに綺麗な星空、初めて見ました」

グレイシア「スノウフィリアは空気が澄んでいるからな」

手を繋いだまま、じっと空で瞬く星々を目に入れる。

◯◯「あっ、流れ星……」

一つ、淡い光が駆け抜けたかと思うと、それを合図に夜空に幾筋もの光が尾を描き始める。

◯◯「本当に、綺麗……。 ねえ、グレイシアく…ー」

首を動かして星空から彼の方を向くと、思ったよりずっと近いところに視線があって、心臓が跳ねる。

グレイシア「お前……本当に変な奴だな」

それまでよりぐっと低い声で囁かれて、首筋がくすぐったく震える。

◯◯「え……」

グレイシア「お前は、兄さんじゃなくて俺のこと、知りたいって言ってくれただろ? そんなこと言われたの、初めてなんだ」

グレイシア君の手のひらが、私の頬を包む。

グレイシア「……教えてやるよ」

◯◯「グレイシア君……」

彼の顔は、赤く染まっていた。

グレイシア「何で俺が城に戻らずに、ここにいたと思う?」

◯◯「何でですか……?」

彼が少し視線を彷徨わせて、小さく咳払いをする。

グレイシア「……お前が来ると思ったから」

その言葉に、胸がまた大きな音を立てる。

◯◯「……来ちゃいました」

恥じらいに顔を伏せてそう言うと、グレイシア君が満足そうに笑った。

グレイシア「……」

頬に当てられている彼の手に、微かに力がこもって…ー。

◯◯「あ……」

そっと、唇と唇が触れる。

触れるだけのそのキスは、私の心を暖かさでいっぱいにした。

(グレイシア君……)

クールな印象とは裏腹に、彼の唇は確かな優しさを持っていた。

グレイシア「なあ、俺にも◯◯のこと、教えろよ……」

流星群が瞬く寒空の下で、彼の触れる場所だけが温かい。

グレイシア「返事は?」

◯◯「はい……」

答えるともう一度、キスが降ってくる。

今度は、深くて、熱いキス…ー。

星が降り注ぐ夜……

初めて知った彼の熱さに、私は浮かされていった…ー。

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