太陽最終話 唇色のトマト

広く薄暗いVIPルームに、ウィルさんの快い声が響く…―。

ウィル「やっぱり君は最高だ!!!」

○○「え?」

ウィルさんが、嬉々とした様子で立ち上がり、私の傍まで歩いてきた。

○○「ウィルさん?」

ウィル「……」

眼鏡のレンズの奥から、彼の瞳が私の顔を見つめる。

ウィル「……顔が引きつってる」

○○「!」

慌ててナイフとフォークを置いて、自分の顔に手をあてる。

○○「私、そんなひどい顔してましたか?」

ウィル「ひどいっていうか……」

ウィルさんが、困ったように腕組みをする。

○○「……ごめんなさい、お役に立てなくて」

ウィル「なんで君が謝るの?」

○○「え? だって感想を聞かせて欲しいってさっき……」

ウィル「うん、そりゃあもう! 充分に聞かせてもらったよ!」

(え?)

腕組みを解き、ウィルさんは私を抱え込むように椅子の背に手を置いた。

○○「あ、あの……?」

ウィル「君の声や息づかい、細やかな指先の動きが、言葉よりもずっと雄弁に僕に語り聞かせてくれたからね。 しかも怖がる君の顔は、僕にとってはこの上ないご褒美みたいだ……!」

○○「……!」

小さな舌先が、彼の唇に着いた赤黒いソースを舐め取る。

ウィル「ま、この辺にしとこうか。今日はディナーを楽しもう」

○○「……はい」

笑いかけてくれた彼は、この上なく楽しそうだった。

ちょうどその時、次の皿が運ばれてきた。

ゾンビウェイター「コチラは本日シェフの気マグレにて作ラレタ一品デございマス」

テーブルに並べられた皿には、色とりどりの野菜と共に3層に分かれたテリーヌが乗せられている。

(よかった……今度のは普通のメニューみたい)

ほっと一息吐いて、私は再びフォークを手に取った。

ウィル「これなら大丈夫みたいだね?」

○○「はい。でもどうしていきなり普通の料理が?」

ウィル「あれ? さっきウェイターにメモ渡したの気づいてなかった?」

得意げに言って彼は目を細める。

ウィル「ま、僕としては最後まで最凶スペシャルディナーを堪能してもらいたかったんだけど……。 もう充分、君には手伝ってもらったからね」

○○「ウィルさん……」

ウィル「それに、君はこのアトラクションの一番最初のお客さんだ。 そんな大切な人を、がっかりさせちゃマズイでしょ?」

(大切な人……)

その言葉の響きに、胸がトクンと音を立てる。

ウィル「さあ、続きを早く楽しもうよ?」

○○「はい……ありがとうございます」

彼は席に戻るなり、フォークを皿の上のトマトに突き立てる。

ウィル「……」

けれど口には運ばずに、ウィルさんはしばらくその赤いトマトを見つめていて……

○○「ウィルさん?」

ウィル「……ふふっ」

妙に艶のある笑い声が、私の耳に届いた。

ウィル「ねえ、このチェリートマト……まるで君の唇のようだと思わない?」

○○「……!」

彼の唇が薄く開かれ、真っ赤なトマトに歯が立てられる。

完熟した赤い実から、とろりとした果肉が垂れ落ちた。

ウィル「おっと、もったいない」

果肉から真っ赤に滴る液体を、ウィルさんの舌が舐め取っていく。

○○「ウィ、ウィルさん……」

(なんだか目のやり場に困るな……)

色っぽいウィルさんの視線を向けられ、心が騒ぎ始める。

ウィル「ほら、君も食べなよ? それともまだ怖い? こんなにおいしいのに……」

こくりと果汁を飲み込んで、彼の喉が上下する。

その様子に先ほどの言葉を思い出した。

ーーーーー

ウィル「ねえ、このチェリートマト……まるで君の唇のようだと思わない?」

ーーーーー

○○「あの、私……」

ウィル「ん? 何? まだ恐怖が抜けないなら、僕が食べさせてあげようか?」

ウィルさんは新たなトマトにフォークを刺し、赤い表面に軽くキスをした。

○○「……っ!」

その瞬間、一気に熱が顔に上って、私はその場でうつむいてしまった…―。

ウィル「はい、あーん。口開けて」

○○「……」

その言葉にあらがえず、私は戸惑いながらも口を開ける。

彼から与えられたチェリートマトはまるでスイーツのように甘く……

私の喉の奥をゆっくりと焼くように落ちていった。

(恥ずかしい……!)

ウィル「……おっかしいなあ」

くくっと、ウィルさんが小さく笑う。

ウィル「ここ、ホラーレストランなんだけどね。 どうして君は……そんな顔してるの?」

○○「!」

ウィル「まったく……かわいらしすぎて、こっちがおかしくなっちゃいそうだよ」

再びゆっくりと立ち上がり、ウィルさんが私に顔を近づける……

○○「ん……」

深く唇を押しつけられ、めまいがしそうになる。

奪うように近づける彼の唇からは、甘く濃厚なトマトの味がした…―。

おわり。

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