その夜…-。
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ディオン『この女性は……俺の想い人だ』
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星を眺めていると、昼間のことが思い出される。
ディオン「こんなところにいたのか」
突然後ろから声を掛けられて、私は思わず息を飲んだ。
ディオン「探した。 その……昼間は済まなかったな。 怖い思いをさせた」
〇〇「いえ……」
ディオンさんがそっと私の瞳を覗き込む。
ディオン「……俺は、王子として生きようと思う」
〇〇「ディオンさん……?」
今まで見たこともないような真剣な眼差しで、ディオンさんは私を見つめる。
ディオン「逃げるのはもうやめだ。それでは俺も、父上も、この国も、何も変わらないとようやくわかった」
〇〇「……」
ディオン「それにな……さっきみたいなこと、もう嫌なんだよ。 お前を失うのは、耐えられないと思った」
〇〇「え……?」
ディオン「まあ、そう言うことだから」
言い終えると、ディオンさんは私の隣に腰かける。
(ち、近い……)
頬が染まっていくのがわかり、私はそっとまつ毛を伏せた。
ディオン「さて、真面目なところを見られたからな。ここからはいつもの俺に戻ろう」
〇〇「えっ?」
ディオン「お前、今が夜だってわかってるのか? 俺と二人でいて、大丈夫だと思ってるのか?」
〇〇「そ、そんな…-」
ゆっくりと近づいてくるディオンさんの顔を、明るい月が照らしている…-。
(これって……)
ーーーーー
〇〇「……あの、ディオンさん…大丈夫ですか?」
ディオン「何が? ……ああ、俺と二人きりになって大丈夫かってこと? ……どうだろうな」
ーーーーー
(あの、ディオンさんだ……!)
そっと私の首の後ろを引き寄せると、ディオンさんは余裕たっぷりに微笑む。
ディオン「大丈夫な訳ないだろ」
〇〇「ディオンさん……」
ゆっくりと唇をディオンさんの指がなぞり、その瞳が私を見据える。
ディオン「お前が俺をこうさせたんだ……責任取れよ」
壁の方へと私を追いつめて、ディオンさんが低い声でささやく。
ディオン「……好きだ」
赤く燃えるような瞳が私をとらえ、その美しさに、そっと息を飲んだ。
ディオン「返事は……?」
〇〇「……っ」
声を出そうとしても、それはもう叶わない。
なぜなら……
(息が、できない……)
ディオンさんの唇が私の吐息を奪い、私はその優しさに身を委ねずにはいられなかったから…-。
(私も、ディオンさんが好き……)
返事の代わりに、そっとディオンさんの肩を抱きかえす。
すると口付けは激しさを増して、息を継ぐことも許されない私は、ゆっくりと意識が遠ざかっていくのを感じた…-。
…
……
ぼんやりと目を開けると、シャンデリアの輝きが辺りを照らしている。
ディオン「気がついたか」
私はベッドに寝かされていて、ベッドサイドでは、ディオンさんが煙管をふかしている。
〇〇「ここは……」
ディオン「俺の部屋だ」
ディオンさんの言葉に、一気に頭の中の霧が晴れていく。
(そういえば……)
記憶が波のように押し寄せて、私はベッドから飛び起きた。
ディオン「元気なようで何よりだ」
ディオンさんがクスクスと微笑む。
ディオン「悪かった。やりすぎたよ」
〇〇「あ……あの……」
鼓動が痛いほどに速まっていく。
ディオン「でも、謝っても意味ないな。 今夜は……帰さないから」
そう言うと、ディオンさんは私のブラウスのリボンにそっと手をかける。
(どうしよう……っ)
優しくまぶたに口付けられ、その感触に胸を震わせているうちに、いつの間にか、私の肌は露になっていた。
〇〇「や……っ」
両手で胸を隠しても、ディオンさんはそれを許さない。
両手にそっと口付けを落とし、私の力を奪っていく。
ディオン「……綺麗だ」
胸にそっとディオンさんの唇が触れる。
〇〇「あ……っ」
ぴくりと背中を反らせると、ディオンさんはそっとそこに手を添え、私を優しくベッドに押し倒した。
ディオン「愛してる……」
(そんなこと……きっと、たくさんの人に言ってるんだ……)
どうしようもなく嬉しいのに……
ディオンさんの自信に溢れる顔がなんだか少し悔しくて、私は心の中でそんなことを思う。
ディオン「……」
すると、ディオンさんは私の心を読んだように微笑んだ。
ディオン「愛してる……お前だけだ」
私の耳元に囁きかけ、この上なく優しいキスを、唇に落とした。
ディオン「〇〇……愛してる」
私に向けられるその言葉は、どこまでも真っ直ぐで……
〇〇「ディオンさん……」
優しいキスが、全身に降り注ぐ。
(私も大好き……)
ミントの香りの部屋の中……
私は、甘い吐息を響かせていった…-。
おわり。