順当に勝ち進み、アインツさんはついに決勝戦まで上り詰めた。
(アインツさん……)
決勝の舞台で、アインツさんが剣を構えた。
そんな彼の前に立ちはだかったのは、アインツさんの弟だった。
アインツ「まさかここに来て、オマエがオレのライバルになるとはな!」
アインツの弟「一緒に練習してきたんだし、オレも出てみたくなったんだよね」
アインツ「弟だからって、容赦しないからな!」
アインツの弟「それは、こっちの台詞だよ。 練習中、僕に勝ったことなかったけどね」
アインツ「わかってないな。練習と本番は違うんだよ、弟よ!」
(またやってる……)
応援席からでも二人のやりとりが聞こえて、思わず笑ってしまう。
(二人とも頑張って……!)
(でも……)
(アインツさん、頑張ってください……)
そして試合開始の合図が鳴った。
アインツ「勝負!」
二人の剣がぶつかり合う。
そして…―。
○○「アインツさん!」
弟さんの剣を薙ぎ払い、アインツさんは優勝を手にした…―。
…
……
競技会が終わり、城に戻るころには、空に星が輝いていた。
○○「改めて、優勝おめでとうございます! アインツさん」
アインツ「ああ! 当然の結果だ!!」
満面の笑みを浮かべた後、アインツさんが嬉しそうに私に話しかけた。
アインツ「○○、約束の件だけど」
○○「約束?」
アインツ「競技が始まる前に、言っただろ」
(競技が始まる前……?)
ーーーーー
アインツ「オレが一番をとったら……」
アナウンス「まもなく第二試合です。競技に出場する方は、開始地点に集まってください」
アインツ「……くれ!」
ーーーーー
(あれのこと……?)
アインツ「オレが一番をとったら、オレの物になってくれって言ったはずだ」
○○「えっ!?」
アインツさんが、私の腰を引き寄せる。
アインツ「○○も応援してくれただろ?」
(そ、そんな事を言ってたなんて……)
○○「ご、ごめんなさい! 実はあの時……よく聞こえなくて……」
アインツ「ええ!? じゃあオレの物になれないってことか!?」
○○「えっと……」
アインツ「じゃあ、改めて言わせてくれ! オレの物になれ! ○○!」
○○「っ……!」
彼の真剣な眼差しに、私の胸がドキドキと音を立てる。
アインツさんが見せてくれた、たくさんの笑顔が頭をよぎる。
(私は……アインツさんの傍でもっとたくさん見たい……)
(アインツさんのいろんな表情を、気持ちを……)
○○「……はい、わかりました」
アインツ「例えオマエが今は断ったとしても、オレは何度でも……え? 今……何て」
○○「え、あの……」
アインツ「はい、って! はいって言ったよな!!」
○○「は……はい」
アインツ「○○……」
ホッとしたようにアインツさんが、私を強く抱きしめた。
彼の胸が早鐘のように鳴っていることが、伝わってくる。
アインツ「驚かすなよ……オレはてっきり」
力の抜けたその声に、思わず笑ってしまった。
○○「……ごめんなさい」
アインツ「いいや、許さない。オマエとキスするまでは……」
彼はそう言うと、私の瞳をじっと見つめる。
そして……
○○「ん……」
ゆっくりと、私の唇にキスを落とした…―。
周囲から、音が失われていく。
私とアインツさんの胸だけが、ドキドキと音を立てていた。
○○「……」
頬が染まっていくことがわかって、彼の顔が離れた後に地面に視線を落とした。
アインツ「これくらいじゃまだ、許さないぞ。 出会った時からずっと、オレの心をかき乱していたのだからな!」
あごが持ち上げられて、じっと瞳が覗き込まれて、再び、アインツさんの顔が近づいてくる。
(アインツさん……)
彼の赤い前髪が、さらりと私のまぶたにかかって……
柔らかな感触に、私はそっと瞳を閉じた…―。