第2話 桜の味

観桜会に盛り上がる街を、ネペンテスさんと二人並んで歩く。

観桜会では、この時期の桜をより楽しむため、花吹雪の中での本の朗読会や、演舞などが企画されていた。

(眺めてるだけでも楽しいな)

隣を歩くネペンテスさんもどこか足取り軽く、ご機嫌な様子だった。

〇〇「素敵な街並みですね、ネペンテスさん」

ネペンテス「え? ああ、そう言えばそうですね」

思いの外あっさりとした返事に、私は……

〇〇「あの、ネペンテスさん?」

薄い反応の真意を確かめたくて、ついもう一度名前を呼んでしまう。

ネペンテス「はい、なんでしょうか?」

恭しく私に向き直るネペンテスさんの瞳に、やはり桜は映っていなかった。

(……もしかして)

〇〇「桜、お好きじゃないんですか?」

ネペンテス「好きかと問われれば、嫌いではありません。 私とて花の精の一族、花には敬意を表しているつもりです。しかし……。 私、食材として魅力のないものには興味が湧きませんから」

困ったような表情のネペンテスさんは、桜の味について語り始める。

彼が言うには、桜はひどく苦みがあったり激しい辛みがあったりで、おいしいものではないらしく……

ネペンテス「人々に愛される桜ほど、味に乱れがあって美食にはほど遠いんです」

神妙な表情にはどこか説得力があり、私は素直に頷き返した。

すると、ネペンテスさんは一転して目を爛々と輝かせ始めて……

ネペンテス「アキトに聞いたのですが……。 観桜会の客には『花の膳』という料理が振る舞われるのだそうです。 賓客に振る舞われるのですから、その『花の膳』とやらは、きっと至高の味に違いありません!」

美食を追い求める相変わらずの姿勢に、なんだか微笑ましくなってしまう。

〇〇「『花の膳』、楽しみですね」

ネペンテス「ええ。それに私は同じくらい、食後の甘味も楽しみにしています」

ネペンテスさんの口角が妖しく吊り上げられる。

(……まさか)

嫌な予感におずおずと顔を上げると、まるで獲物を前にした捕食者のような眼差しを向けられた。

ネペンテス「『花の膳』を食したあなた様は、いったいどんな味がするのでしょう。 きっと今よりも一層、芳醇でとろけるような……」

痺れるような甘い香りを振りまきながら、ネペンテスさんがぐいぐいと迫ってくる。

〇〇「ネ、ネペンテスさん近いです……!」

私は鼓動が速まるのを感じつつも、なんとか彼の体を押し返した。

(……桜を見て落ち着こう)

けれどその後も戯れのように体を寄せてくる彼に、私の心臓は早鐘を打ち続けるのだった…-。

<<第1話||第3話>>