第3話 甘い香り

レジェ「さあ、ここが君の部屋だよ」

レジェが扉を開けると、冷んやりとした部屋の空気に肌が触れる。

それが熱を帯びていた頬に心地よかった。

レジェ「今日は疲れただろうから、ゆっくり休んで」

○○「ありがとうございます。気を使わないでください。国議があるのに……」

レジェ「気遣ってくれてありがとう。でも、午後からだから大丈夫だよ」

○○「……そうですか」

レジェの優しさに、頬が緩む。

レジェ「明日の朝、迎えにくるね」

○○「はい」

執事「失礼いたします」

その時、ノックと共に、執事さんが入ってきた。

レジェ「ありがとう、待っていたよ」

執事さんの手にはトレーがあり、ティーカップを一つだけ乗せている。

部屋の中に、温かい香りが漂ってくる。

(……なんだろう?)

レジェ「はちみつはあるかな?」

執事「はい、ご用意してございます」

レジェ「今日は寒かったから、体が温まるかと思って紅茶を用意させたんだけど」

(なんだか、すごく気を使わせてしまっているような……)

○○「私は大丈夫ですから、レジェが飲んで下さい」

レジェ「僕が? 大丈夫だよ、僕はもう朝にいただいてるから」

レジェは執事さんからティーカップを受け取って、はちみつをゆっくりと流しいれていく。

レジェ「はい、どうぞ」

レジェが、私にティーカップを渡してくれた。

○○「いい香り……」

心地のいいその香りに誘われるまま、紅茶を口に運んだ。

はちみつの優しい甘さが口の中に広がっていく。

(なんだか、ほっとする)

○○「とても美味しいです」

レジェ「それはよかった。甘い物は疲れも癒してくれるからね。 緊張してたみたいだったから。少しでも、気持ちが落ち着くといいんだけど」

(気づいてくれてたんだ……)

○○「はい! もう全然大丈夫です」

そう答えると、レジェは柔らかな笑顔を私に向けた。

レジェ「熱いから、気をつけて飲んでね」

○○「はい」

レジェは姿勢よく踵を返すと、執事さんと共に部屋を出て行った。

(レジェって……完璧な王子さまって感じがする)

そんなことを思いながら、ふと窓の外に目を向ける。

(ロイさん……?)

中庭の木の下で、ロイさんが横になっているのが見えた。

ーーーーー

レジェ「僕は嫌われてしまっているようで……」

ーーーーー

(どうしてだろう……)

日はすでに傾き始め、茜色の夕日が優しく中庭を包み込んでいる。

木の下で横になっているロイさんに近づいてみる。

ロイ「……僕に何かご用ですか」

ロイさんが私に気づいて起き上がった。

○○「隣、いいですか?」

ロイ「……どうぞ」

返事をくれたロイさんは、お面でもつけているかのように、無表情のままだ。

○○「あの……レジェ王子のことですが…―」

ロイ「完璧、でしょう?」

私の言葉を遮って、ロイさんが鋭い口調で言葉を投げてきた。

ロイ「雰囲気も、立ち振る舞いも、何もかも。次期国王にふさわしい、自慢の兄です」

その言葉とは裏腹に、ロイさんの顔は暗い影に縁取られていた。

○○「ロイさん……?」

ロイ「あなたが、兄を目覚めさせたのですよね」

○○「……はい」

ロイ「……少しだけ、あなたを恨んでしまいそうです」

○○「え……?」

ロイさんは私の顔を見ないまま、城へと戻っていった。

(どういう意味……?)

私は一人、刻々と色を濃くしていく夕焼けに、夜の気配を感じていた…―。

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