第3話 もう一つの顔

ランウェイの上を、色とりどりの照明が交差する。

煌びやかな衣装をまとったモデル達が、私の前をと颯爽と通り過ぎる。

(格好いいな……)

私は、客席からファッションショーのリハーサルを見学していた。

スペルヴィア「んー……何か足りないのよね……」

モデルさんが全員ランウェイを歩いた後、スペルヴィアさんが口を開く。

スタッフ「何か……ですか」

スペルヴィア「そう。いいのよ、さすがワタシっていうか……すごくいい出来なんだけど……。 でも、何かが足りなくて。自分でもハッキリしなくて嫌になるわ」

スペルヴィアさんは、またじっとランウェイを見つめ…-。

スペルヴィア「やめた。今日は解散」

スタッフ「え?」

スペルヴィアさんの唐突な一言に、スタッフさん達からざわめきが起こる。

(スペルヴィアさん、どうしたんだろう……)

スペルヴィア「ワタシは帰るけど、やっぱり照明がまだイマイチ。 衣装に合わせて調整しておいて。明日朝イチで確認するから」

スペルヴィアさんは私に近づきながら、後を追うスタッフさんに指示を出す。

スタッフ「はい! お疲れ様でした」

大勢のスタッフさん達が、いっせいに頭を下げる。

スペルヴィアさんは軽く微笑み、私の前で立ち止まった。

スペルヴィア「お待たせ。さあ、行くわよ」

(お仕事の途中みたいだけど、大丈夫かな……?)

〇〇「いいんですか?」

スペルヴィア「気分転換も必要でしょ。それに本来なら、もう終わってる時間だし」

〇〇「あ、そうだったんですね」

スペルヴィア「それに……」

スペルヴィアさんが、そっと私に顔を近づける。

スペルヴィア「今日はさっさと終わらせて、アンタとデートしたかったの」

(デート……)

その言葉に、胸がとくんと小さく音を立てる。

言葉に詰まった私を見て、スペルヴィアさんは悪戯っぽく微笑んだのだった…-。

……

大きな夕陽が、街を橙色に染め上げている…-。

道行く人々は個性的なファッションに身を包んでいて、街を鮮やかに彩っている。

(記録の国でのファッションショーか……ちょっと意外だったな)

華やかに飾りつけられた街並みは、以前訪れた時の落ち着いた印象とはだいぶ違っていた。

(モデルみたいな人も多いし……)

私は、隣を歩いているスペルヴィアさんをそっと見上げた。

漆黒の髪は艶やかに輝き、黄緑と青のオッドアイが夕陽に映える。

(私も、こんなに素敵な人と一緒に歩いているんだよね……)

整った顔立ちに目を奪われていると…-。

スペルヴィア「どうしたの?」

不意に、スペルヴィアさんと視線がぶつかる。

〇〇「あ、いえ……」

私は慌てて、道行く人に視線を戻した。

〇〇「おしゃれな方が多いですね。モデルさんでしょうか?」

スペルヴィア「ファッションショーの前だしね。センスのいい子が多くて、気分が高まるわ」

スペルヴィアさんは、嬉しそうに辺りを見回す。

〇〇「皆さんもスペルヴィアさんも素敵で……やっぱりファッション業界の方はおしゃれだなと思います」

スペルヴィア「ちょっと。ワタシも、じゃなくてワタシが一番でしょ」

〇〇「あ……」

口を押える私を見て、スペルヴィアさんがくすりと笑う。

スペルヴィア「ワタシがこういう性格だってこと、アンタにはそろそろわかってほしいんだけど」

〇〇「そうですよね、あの…-」

慌てて言葉を紡ごうとした時…-。

スペルヴィアさんが唇を近づけ、そっと囁いた。

スペルヴィア「オマエのそういうところ、嫌いじゃないけど」

〇〇「……っ」

耳をかすめた低い声に、頬が急激に熱くなる。

スペルヴィアさんは、こうして突然素の話し方をする時があって……

(びっくりした……)

低い声に、どぎまぎと視線を定められずにいると…-。

スペルヴィア「さあ、行くよ」

歌うように言うと、彼は私に背を向ける。

〇〇「……はい」

歩き出したスペルヴィアさんの、綺麗に伸びた背中を見つめる。

ドキドキと音を立てる鼓動を感じながら、その後を追った…-。

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