第3話 まぶしい背中

ふわりと優しい風が会場内に溢れ、チョコレートの甘い香りが鼻をかすめる…-。

(食べ物……確か、いろんな国が集まったフードコートがあったよね)

(でも、映画の国も面白そう)

私は広げられたパンフレットを見つめて、悩んでしまう。

(……どうしよう)

〇〇「全部見てみたいです」

紫雨「全部……」

紫雨さんは、わずかに驚いたような顔をした後……

紫雨「ははっ……やっぱり君はすごいや」

〇〇「あ、あの…-」

紫雨「そういうところ、すごくいいと思うよ」

〇〇「!」

紫雨さんの穏やかな声が心地よく響いた。

紫雨「あそこから行こうか」

なかなか決められない私に、紫雨さんが優しく声をかけてくれる。

彼の視線の先にあったのは、星の国のパビリオンだった。

紫雨「星の国のパビリオンはプラネタリウムなんだね」

〇〇「素敵ですね」

紫雨「じゃあ、行ってみる?」

〇〇「はい」

私達は再び歩き出す。

紫雨さんは行き交う人々からかばうように、私の少し前を歩いていて……

(紫雨さん……やっぱり、出会った頃とは変わった気がする)

彼の背中をまぶしく見つめながら、胸が静かに音を立てるのを感じていた。

紫雨「そういえば、星祭りに一緒に行ったことがあったよね」

不意に紫雨さんが口を開く。

〇〇「楽しかったですね」

紫雨「うん……君と一緒に過ごせて、すごく楽しかった」

ほんのりと頬を染めて微笑む彼に、ひときわ胸が大きく高鳴る。

紫雨「だから……また、一緒に行きたいね」

〇〇「はい」

話しながら歩いていると、パビリオンの入口に並ぶたくさんの子ども達の姿が目に入る。

紫雨「やっぱり人気のパビリオンなんだなあ」

〇〇「そうみたいですね」

わくわくしながら待つ子ども達を微笑ましく思い、紫雨さんと目を細めていると……

〇〇「!」

勢いよく飛び出してきた女の子とぶつかってしまい、尻餅をついた私と女の子に、紫雨さんが駆け寄る。

紫雨「二人とも大丈夫!?」

〇〇「私は平気です。それより…-」

軽く頷くと、紫雨さんは女の子に手を差し出した。

紫雨「君は平気?」

きょとんとしている女の子は、やがて紫雨さんの手を取って立ち上がる。

そこに母親らしい女性が慌ててやって来た。

母親「すみません! ほら、お姉さんに謝りなさい」

〇〇「大丈夫ですよ。あなた、痛いところはない?」

女の子「うん。 ごめんなさい。今日、お友達に会えるから急いでたの!」

紫雨「そうなんだ。でも、転ばないように気をつけてね」

女の子「はーい!」

何度も頭を下げる母親に手を引かれて歩いていく女の子は、嬉しさを抑えきれないのか、弾むようにスキップをしている。

紫雨「楽しそうだね。あの子も」

〇〇「はい。見ているこっちまで楽しくなります」

配られた風船を手に歩く家族連れや、パビリオンの前で記念撮影をする恋人達……

誰もがワールドサロンを楽しんでいる様子に、温かな気持ちが胸に広がっていった。

紫雨「今、来てよかったって、思ってる?」

〇〇「そうですね。とても……」

紫雨「僕も同じこと思ってた。来てよかったなって…-」

私達は微笑み合うと、再び歩みを進め、星の国のパビリオンにできた列へと並んだのだった…-。

……

プラネタリウムを鑑賞した私達は、毒薬の国のパビリオンへとやって来た。

紫雨「不思議な植物があるんだね……」

紫雨さんは、フウセンカズラによく似た薄紅色の植物を見上げている。

〇〇「甘くていい香り……」

果実のような香りを放つ植物に、鼻を近づける。

紫雨「確かに、おいしそうな匂いだね。 でもこれ、食べると笑いが止まらなくなるって……」

そう言って彼は、立て札を指さす。

その時だった。

(……あれ?)

〇〇「あの、どこかから泣き声が聞こえませんか……?」

紫雨「え? ……本当だ。どうしたんだろう?」

私達は、しなだれた植物のカーテンを抜けて、声のする方へと向かったのだった…-。

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