第2話 笑顔を作る人

風で揺れる風船のアーチをくぐり抜けると、各国のパビリオンが立ち並んでいた。

〇〇「すごい人ですね」

訪れた人々で活気溢れる会場内に、澄んだ歌声が響いている。

紫雨「いい歌だね……声の国かな」

紫雨さんはパンフレットから視線を上げて、歌声に耳を傾ける。

(素敵な歌…-)

出迎えの歌声に気を取られていると、前を歩く人にぶつかりそうになった。

〇〇「……!」

紫雨「〇〇、大丈夫?」

〇〇「……あ、はい」

紫雨「人が多いし……気をつけてね」

優しく腕を引き寄せる紫雨さんに、私は……

〇〇「ありがとうございます」

紫雨「どういたしまして」

そう言うと彼は、人波から私を守るようにしながら歩き始めた。

紫雨「それより……ごめんね。無理に来させちゃって。 もう少し空いてそうな時間に誘えばよかったかな……」

辺りでは家族連れや恋人、友達同士など、多くの人々がパビリオンを見学している。

〇〇「大丈夫ですよ。ただ……」

紫雨「ただ?」

〇〇「少し驚きました。紫雨さんが誘ってくれるなんて、思ってもみなかったから……」

紫雨「ははっ、意外……だったかな? 実は僕も悩んだんだ。 まだ大変な旅の途中だし……ここで楽しんでいる場合じゃないんじゃないかって」

彼は噛みしめるように言葉を紡ぐ。

けれど少し硬かったその表情は、すぐに柔らかな笑みへと変わった。

紫雨「でも……僕らの他にも、この世界を平和にしたいって頑張ってる人達がたくさんいるんだよね。 なら、ちゃんと見ておきたいんだ」

〇〇「紫雨さん……」

彼は、パビリオンの前で来場者を出迎える人々の笑顔をまぶしそうに見つめる。

紫雨「やっぱり、来てよかった。 たくさんの人が、皆を笑顔にしたくてこのワールドサロンを作ろうとしてることがわかったから。 その気持ちをちゃんと受け止めなきゃって、思えるんだ」

〇〇「そうですね」

紫雨さんの言葉や笑顔からは、おどおどとしたものは感じられず……

出会った頃とは違う彼の姿に、胸が温かくなるのを感じた。

紫雨「僕は皆と違ってあまり強くないから……。 たくさん、皆からの力を借りないといけないよね」

言葉のひとつひとつが心に染み渡る。

〇〇「はい。皆の力を借りて……思いも受け取って」

紫雨「うん。 ……っと、ごめん。なんだか堅苦しい感じになっちゃったね。僕らも楽しもう」

私が笑顔で頷くと、紫雨さんはパンフレットを開く。

紫雨「行ってみたいところはある?」

〇〇「えっと……」

パンフレットを覗き込む私の後ろで、子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえた…-。

<<第1話||第3話>>