第2話 花霞の道

先ほどの通り雨で、無数の桜の花びらが散ってしまっていた。

○○「綺麗だったのに……たくさん散ってしまいましたね」

桜花「大丈夫ですよ」

桜花さんはにっこりと微笑むと、花の落ちた枝の下へと歩き出す。

○○「桜花さん?」

もう一度私に向かい微笑むと、桜花さんは天上を仰ぐように、優雅に舞い始めた。

(綺麗……)

それはまるで、可憐な桜の花びらが舞う景色そのもので……私はその美しくも不思議な光景に、目を奪われた。

すると…―。

○○「え……っ」

彼の動きに合わせるように、ぽん、ぽんと、次々に桜の蕾が膨らんでいって……あっという間に花がほころび始めた。

○○「わ……」

桜花「私の一族が持つ、ささやかな特技です」

○○「綺麗……」

再び枝いっぱいに咲いた桜の花びらを眺め、思わずため息がこぼれる。

桜花「そんなに感動していただけましたか?」

○○「はい……桜花さんの舞が、美しくて」

そう言うと、桜花さんが少し驚いたような顔をして…―。

桜花「いいえ、大したことはありません」

こころなしか、彼の頬は少しピンク色に染まっているように思えた。

桜花「他に、何かお望みはありませんか?」

○○「いえ、そんなにお気を使わないでください」

桜花「気など使っておりません。私はただ、あなたに喜んでいただけて嬉しいのです」

(桜花さん……すごく謙虚な方)

とても気品に溢れているのに、その柔らかい雰囲気が心を穏やかにさせてくれる。

○○「桜花さんは不思議な方ですね」

桜花「不思議?」

○○「はい。とても謙虚で、優しくて……王子様らしくないというか」

桜花「そうなんです。私は、あまり威厳がないですから」

桜花さんが、困ったように眉尻を下げながら笑う。

○○「ち、違います!そういう意味ではなくて……」

慌てて否定すると、私の様子がおかしかったのか、桜花さんはくすくすと笑みをこぼした。

桜花「そういうあなたも、他国の姫達とはどこか違う雰囲気を感じます」

○○「私は、優雅な振る舞いには自信がないので」

桜花「そうやってご自分を謙遜されるところがですよ」

○○「え……っ」

桜花さんが、着物の袖を口に当て、にっこりと微笑んだ。

桜花「王族として、堂々とした振る舞いをといつも心がけているのですが、どうも苦手でして」

○○「……わかります」

桜花「私達は、どうやら似ているようですね」

○○「そ、そうでしょうか?桜花さんと私が似てるなんて……桜花さんはすごく気品に溢れています」

桜花「それを言うなら……」

不意に、桜花さんのしなやかな手が私の頬に触れる。

○○「え……?」

慈しむように頬を撫でられて、胸が小さく音を立てる。

(桜花さん……?)

桜花「可愛らしい顔……表情豊かで、生命力に溢れていて。 私にはないものを、あなたは持っているようです」

桜花さんによって満開となった桜の木の下、視線が絡み合う。

彼の美しい瞳に見つめられ、呼吸すら忘れそうになってしまう。

桜花「……失礼いたしました」

やがて桜花さんはゆっくりと私の頬から手を離し、そのまま私に背を向けた。

その時…―。

一枚の花びらがひらりと桜花さんの髪に舞い落ちる。

(あっ……)

そっと手を伸ばし、その花びらを取ろうとした時…―。

桜花「……!」

桜花さんの体が急にこわばり、私の手をさっと払いのけた。

(え……っ)

先ほどまでの雰囲気とは違い、桜花さんの表情はとても厳しく……

桜花「……何でしょうか?」

○○「あ、あの……桜の花びらが、桜花さんの髪に」

桜花「取ってくださろうとしたのですね……ありがとうございます」

桜花さんはすぐに優しい笑顔へと戻った。

一瞬見せた桜花さんのその暗い表情を、私はどうしても忘れることができなかった…―。

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