第5話 海底の闇と真実

色とりどりの魚がキラキラと舞うように泳いでいる中…―。

オリオンさんに手を引かれ、私は屋外にしつらえられたテーブルに向かっていく。

オリオン「お待たせしました、母上」

たくさんの使用人の方達に囲まれて座っていた美しい女性が、ふと目をあげる。

王妃「おはよう、オリオン……それに〇〇さん」

目で促され、私とオリオンさんは椅子に腰掛ける。

すぐに貝殻で作られたティーカップが運ばれてきて、爽やかな香りのミントティーが用意された。

王妃「昨晩オリオンから聞きました。二人が結婚を誓い合った仲だと。 夫は喜んでいましたが……私は、オリオンの妻となる女性を簡単に認めるつもりはありません」

――――――――――

オリオン「どのみち、
お前はもうここから帰ることはできない」

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(地上へ戻る方法……)

(聞くなら、今しかない)

私が思いきって口を開こうとすると……

オリオン「いいぜ、聞いても」

オリオンさんが私の耳元で囁く。

オリオン「ただしそんなことをしたら……。 お前を一生、俺の部屋の中に閉じ込めてやる」

〇〇「……っ」

その言葉に、背筋がぞくりとする。

いろいろな考えが頭をめぐり、私は口を開けたまま、言葉を紡ぐことができずにいた。

王妃「本日から、試験的にお妃教育を受けていただきます。よろしいですね?」

オリオン「……」

〇〇「は、はい……っ」

オリオンさんの余裕たっぷりの視線を受けて、私は思わず返事をしてしまった。

……

午後…―。

オリオン「それでは、次にこの国と地上の国交について」

私はさっそく、お妃教育の一貫で海底国の歴史を学んでいた。

(私、何やってるんだろう)

深いため息を吐くと……

オリオン「おい、聞いてるのか」

オリオンさんが、私の顎を指で持ち上げる。

〇〇「……!き、聞いてます!」

思わずそう答えてしまうと……

オリオン「……」

オリオンさんがにやりと笑って、顎から指を離した。

(もう……)

オリオン「昔、地上人は自由に海底と地上とを行き来することができた。 だが、魚人と差別されたり、ペットとして人身売買されるようになってだな……。 今ではほとんど地上との交流は断絶されて。 特別な力を与えられないと地上人は行き来できないようになった。 唯一地上の人間が海底にくることが許されるのは、婚姻の誓いのキスをした場合のみだ」

〇〇「え……?」

(婚姻の、誓いのキス?)

オリオン「海底に来る力は、それで得ることができる」

そこまで流暢に話すと、オリオンさんは意地悪そうな瞳を私に向けた。

オリオン「ただし、地上に戻る力を得るには……より濃密な海底人との
つながりが求められる」

〇〇「より濃密な……つながりって?」

その言葉に、私の心臓が音を立て始める。

オリオン「子を成すことだ」

オリオンさんはそう言って私の髪を指に絡めとる。

〇〇「……!!」

(じゃあ、私は海底人……オリオンさんとの子どもを産まないと、帰れないの?)

オリオンさんの言葉にショックを受け、私はその場に固まってしまう。

オリオン「これでわかっただろう?お前は俺と結婚しなければ、地上に帰れない」

オリオンさんがにやりと笑みを浮かべる。

(あれ?でも、海底へ来る時の誓いのキスをしてはいないはずだけど)

(も、もしかして)

――――――――――

オリオン「お前、俺についてくるか?」

〇〇「オリオンさ……っ…ん……っ」

――――――――――

(あれが、婚姻のキスだってこと!?)

オリオン「どうした?顔赤いぞ」

思わず立ち上がると、オリオンさんは心配そうに私の額に手を当てる。

顔を覗き込まれて……

私はそのきらめく瞳の中に吸い込まれていくような気がした…―。

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