第2話 とらわれの姫

その夜…―。

海底国の城に到着した私は、美しくしつらえられた部屋で、オリオンさんと向かいあっていた。

オリオン「どうだ、慣れたか」

オリオンさんの唇から、小さな気泡が上がっていく。

城の外では、ゆらゆらと波がたゆたっている。

(水の中にいるはずなのに)

息ができ、体も自由に動くこの空間は、地上にいるときの感覚と同じだった。

〇〇「まだ不思議なことばかりで……国中が大きなシャボン玉で覆われているのに、とても驚きました」

オリオン「死にたくなければ、シャボンの外には出るなよ」

〇〇「えっ……」

オリオン「お前に与えたわずかな力では、外に出るには少なすぎるからな」

(外へ出たら、死んでしまうってこと?)

身震いする私に、オリオンさんが何かを差し出した。

〇〇「これは?」

オリオン「お前、夕焼け色の海見てほうけてただろ。 似た色の貝殻があったから、ネックレスを作らせた」

夕焼けを溶かしたような、美しいオレンジ色の貝殻のついたネックレスに、私は瞳を輝かせる。

〇〇「嬉しい……ありがとうございます!」

オリオン「……あんな顔されたら、誰だって贈りたくなるだろ」

(オリオンさんって強引かと思ったけど、優しい人なんだな)

口調とはうらはらな優しさが嬉しくて、私は頬をほころばせた。

オリオン「それはさておき……。 お前、俺と婚約しろ」

〇〇「えっ!?」

オリオン「何驚いてんだよ?光栄だろ」

突然の言葉に、私は何度も瞳を瞬かせる。

オリオン「お前が俺を起こした時から、どうやら俺はお前のことが好きらしい」

〇〇「す、好き……?」

オリオン「ああ。俺は、欲しいものは何でも手に入れる。だからお前と結婚することにした」

(な、何を言っているの?)

驚いた私は……

〇〇「冗談ですよね?」

思わずそう尋ねると、オリオンさんは心外そうに私を見つめた。

オリオン「どのみち、お前はもうここから帰ることはできない」

〇〇「え!ど、どういうことですか!?」

オリオン「来るときはキスで済むが、地上へ戻るときはもっと別の方法で力を得なければならない」

〇〇「ど……どうすればいいんですか!?」

オリオン「教えると思うか?」

オリオンさんの意地悪そうな笑みが、私の期待をかき消した。

オリオン「まあ、教えたところでお前にはどうにもできないだろうがな。それに……。 もう返すつもりはない」

私の首を下へと辿りながら、オリオンさんは胸元のリボンに手をかけようとする。

〇〇「……やめてくださいっ!」

オリオン「そうだな、まずは婚約者として俺の母に会ってもらおう」

〇〇「お母様?」

(お母様に事情を話せば、地上に戻る方法を教えて下さるかも)

そんな私の考えを見透かすように、オリオンさんが不適に微笑んだ。

オリオン「お行儀よくして、花嫁修業をせいぜい頑張るんだな。婚約者殿」

(私……一体どうなっちゃうんだろう)

去って行くオリオンさんの後ろ姿を見つめながら、

海底の美しい景色を、ぼんやりと眺めることしかできなかった…―。

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