月SS 魔法の音色

花畑で彼女と聞いたヴァイオリンの演奏が、オレに大切なことを気づかせてくれた…-。

(このままじゃ……ダメだ)

拳をぎゅっと握りしめたオレは、〇〇ちゃんに向き直る。

ヘラクレス「オレ……やりたいこと、見つかったかも」

〇〇「それって、もしかして……」

(魔法のサックスも鳴らせないままで、バンドも中途半端だなんて……)

(オレを選んでくれたサックスにも失礼だし、バンドの皆にだって……)

ヘラクレス「やっぱ、このままじゃ格好悪いなって思ったんだ」

(キミにもちゃんと、格好いいところを見てもらいたいから)

ヘラクレス「だからもう一度、頑張ってみようかなって……」

(また失敗するかもしれないけど……)

(大事なのは、音楽に込める気持ちだってわかったから)

ヘラクレス「練習、付き合ってくれる?」

〇〇「うん、もちろんだよ」

夕陽に照らされた満面の笑みはこれ以上ないってくらい、オレに元気を与えてくれた…-。

……
夜の練習室に差し込む光は、オレ達の影を優しく照らし出していた。

魔法のサックスが鳴り響く中、腕の中で〇〇ちゃんの温もりを噛みしめる…-。

〇〇「ヘラクレスの誰よりも優しい心が、大好きだよ」

(キミって、どうしてそんなふうにオレの心をくすぐるの?)

込み上げる愛おしさを、どう扱ったらいいのかわからなくなる。

ヘラクレス「……あんまりかわいいこと言われたら、オレ、馬鹿力でキミをどうにかしちゃうかもしれない」

(キミをこうやってずっと抱きしめていられたらいいのに)

ヘラクレス「それくらいキミが好き」

(どうしたら、もっとキミにオレのこの気持ち伝わるかな)

聞こえてくるサックスの音色は、悔しいぐらいオレの気持ちを表していて…-。

(……そっか。もう隠しようがないくらい、バレバレなんだっけ)

ヘラクレス「もう少しこのまま……キミを感じていてもいいかな」

〇〇「……うん。私も、こうしていたい」

そう言って〇〇ちゃんは目を閉じる。

伏せたまつ毛が、綺麗な頬に影を落とした。

(でも……サックスの音だけじゃ、絶対にわからないこともあるよね)

ヘラクレス「……ごめん」

オレはゆっくりと彼女から離れると、揺らめくその瞳を見つめ返した。

〇〇「……え?」

(どれだけオレが、キミを想っているか……)

サックスの音色が、さっきよりも少しだけ調子を上げる。

ヘラクレス「もう音でバレちゃってると思うけど……」

(そうだよ、オレはキミを求めてる)

(……苦しいくらい、いっぱい)

ヘラクレス「オレ……このままでなんていられないかも」

熱を帯びていく彼女の瞳には、オレだけが映し出されている。

ヘラクレス「〇〇」

繊細な顎に指先をあてて持ち上げると、切なげな表情を浮かべた彼女と視線がぶつかった。

(そんな目で見られたらオレ、もう止められない)

潤んだ瞳の奥に吸い寄せられるように、そっと顔を近づけると……

柔らかな唇にゆっくり口づけを落とした。

(大好き……〇〇ちゃん)

その存在を確かめるように深く唇を重ね合わせると、甘い吐息が漏れた。

〇〇「……っ」

熱くなる体温を感じながら、彼女を壊さないように優しく抱きしめ直す。

〇〇「……!」

ヘラクレス「……痛くない?」

頬を赤くする彼女は、静かに首を横に振った。

月明かりに照らされる〇〇ちゃんは、いつもより少しだけ艶っぽい。

オレの気持ちを代弁するように、サックスは情熱的な音色を奏で続ける。

(もっともっと、って思っちゃうのは……この魔法の音色のせいかもしれない)

首筋に唇を押しあてると、彼女は小さく体を震わせた。

〇〇「ヘラクレス……」

ヘラクレス「もうちょっとだけ……ダメ、かな」

(ずっと大切にするから)

耳元に唇を寄せて想いを紡ぐ。

(このサックスにも負けないくらい、大好きって気持ちを伝えたいんだ)

ヘラクレス「……〇〇。 何度でも言うよ。オレはキミが大好き」

(今も、この先だって)

(ずっと、ずっと……)

ヘラクレス「大好きだよ」

彼女から発せられる甘い香りを吸い込みながら、オレはゆっくりと目を閉じた…-。

おわり。

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