月最終話 鳥を呼ぶ声

夕暮れのとろけそうな光を、まぶたの裏に感じる…―。

瞳を閉じてレイスさんの音楽に聴き入っていると、ふいに音楽が止んだ。

○○「……?」

そっと目をあけると、彼が優しい瞳で私を見つめている。

レイス「幸せそうに聴くね」

○○「え……」

(何だか恥ずかしいな……)

レイス「音楽、好き?」

○○「はい……なんだか、幸せな気持ちになります」

恥じらいながらもそう答えると、レイスさんは嬉しそうに微笑んだ。

音楽会が終わったことに気がついて、鳥達が飛び立っていく…―。

レイス「……」

レイスさんは大きく息を吸った。

レイス「俺はここを出ていこうと思う」

○○「え!?」

レイス「争いは嫌いなんだ。 でも、ここにいる限りはいかに王位継承権が低くても、争いに巻き込まれることになる」

○○「……」

レイス「城を出て……演奏したり、絵を描いたりして生きていこうと思う」

レイスさんは、遠ざかっていく鳥達の姿を見つめていた。

レイス「俺は、俺が弾いた曲を聴いたり描いた絵を見て人が笑顔になってくれるのが、一番好きみたいだから」

(レイスさん……)

ヴァイオリンを弾いている時の、彼の心から幸せそうな笑顔を思い浮かべた。

(レイスさん、ほんとうに幸せそうだった)

(こんなこと思っちゃいけないんだけど……お城の中より、広い世界が似合いそう)

レイス「勝手かな。王子に生まれついたのに」

レイスさんは、そっと私の瞳を覗き込んだ。

その時、

執事「レイス様―!」

執事さんがレイスさんを探す声がした。

(え……っ!)

突然に私を抱き寄せて、彼は木の陰に身を隠す。

私は、私を抱く彼の腕がかすかに震えていることに気がついた。

○○「……私、レイスさんの音楽が大好きです」

私はゆっくりと言葉を紡ぐ。

○○「絵も……。 こんなに世界って綺麗だったんだって気付かせてくれるから。 レイスさんの芸術は、人を幸せにすると思います」

そう言うと、レイスさんは私を抱く手に力を込める。

レイス「じゃあ……一緒に来てくれる?」

○○「え!?」

レイス「二人で世界を回って、綺麗なものを見て、色んな人を幸せにする綺麗なものを作って……。 楽しそうだと思わない?」

○○「でも……」

レイス「大丈夫。○○は何も心配しないで。 俺が守るから」

レイスさんは、そう言って私の顔を覗き込み、キラキラと瞳を輝かせた。

(綺麗な瞳……)

吸い込まれるようなその瞳を見つめていると、彼を呼ぶ使用人さんたちの声が遠ざかっていく…―。

レイス「……いいよね?」

私は、ただ彼の手をそっと握ることしかできない。

(答えられないよ……)

高い城壁の向こう……鳥たちが美しい声で歌っている。

その声はまるで、レイスさんを呼んでいるようだった…―。

おわり。

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