月最終話 花に願いを

微かに漂う花の香りが、私の期待を膨らませていく…-。

〇〇「特別な花って、なんでしょうか」

紫雨「うん、気になるね」

係員「きっとお気に召してもらえると思います。さあ、こちらへ」

私達は手を繋いだまま、係員さんの後をついていく。

……

案内されたのは、花と緑の国・ブルメリアのパビリオンにある花畑だった。

紫雨「すごいな…-」

パビリオンの周りは今、闇に包まれていて……頭上には大きな月がある。

一面に咲く花々は、遠くに浮かぶ太陽と頭上の月を受けて七色に輝いていた。

(綺麗……)

係員「ここに咲く花は、太陽と月が空にある時……まさに、この特別な時期にしか咲かない花なのです」

紫雨「あっ、色が変わった」

〇〇「はい……不思議ですね」

さまざまな色に変化して見える花に驚いていると、係員さんはくすりと笑みをこぼした。

係員「夢の力が強まるというこの時に、一度だけ花をつけて種子を残すのです」

(なんて神秘的なんだろう)

紫雨「……まるで、夢の力を使って花を咲かせているみたいだ」

係員「ええ。ブルメリアでは夢光花(むこうばな)と呼ばれていて、夢の力の象徴として愛されています」

紫雨「夢の力の象徴……」

紫雨さんは、きらきらと輝く花々をまぶしそうに見つめている。

夢の力を分けてもらうように、私は深呼吸をした。

〇〇「……いい香りですね」

体中を花々の爽やかな香りが駆け巡っていく。

係員「この花の蜜で作られる香水もありますよ」

〇〇「紫雨さん、つけてみたらどうですか?」

紫雨「え……僕が? 香水って、今まであまりつける機会はなかったけど」

他愛ない会話を楽しみながら進んでいくと、花畑の中央に夢光花で飾られた塔があった。

紫雨「あれは……?」

係員「我が国ブルメリアは戦争をしていた時がありまして……平和への誓いを花で表現したものです」

私達は吸い寄せられるように、塔へと近づいた。

手を繋いだまま、花の塔を静かに見上げる。

紫雨「きらきらと輝いて綺麗だね。夢の力に溢れているみたいだ……」

〇〇「そうですね」

私達は美しさに言葉を忘れ、ただじっと塔を見つめていた。

しばらくして、紫雨さんが静かに口を開く。

紫雨「ねえ、〇〇」

〇〇「はい」

紫雨「いいね。こういうのって。 僕はきっと、こういうのにずっと憧れていた」

〇〇「え……?」

紫雨「綺麗だねって僕が言えば、君がそれに答えてくれる。 とても些細なことだけど……こんなに幸せなことはないよ」

(紫雨さん…-)

彼は花の塔を見上げたまま、その表情を引きしめた。

紫雨「だからもう……何かに怯えたり、争ったり傷ついたり……そんなことは終わりにしたい。 誰もが大切な人と、安心して笑い合えるように……僕らも…-」

それ以上言葉にしなくても、力の込められた紫雨さんの手から想いが伝わってくる。

〇〇「……はい」

(今日の想いを胸に、私達は旅を続けていく…-)

瑞々しく咲き誇る花から、見えない力を授けてもらったような気がする。

(ここに来て……本当によかった)

改めてそう感じていると……

紫雨「……僕の夢を一つ、言ってもいいかな」

少しためらいがちに、紫雨さんが言う。

〇〇「もちろんです」

すると、微笑む彼の口から言葉が溢れる。

紫雨「この旅が終わって……また、空に太陽と月が上る時には、僕も綺麗なパビリオンを出したいな。 この花のように、今日ここで感じた想いを……未来へ繋げたいから」

そう告げる彼の瞳には、希望に満ちているように思えた。

紫雨「傷ついた人の心を照らして、新しい夢を見つけられるように。 自分だけの輝く光が、見つかるように」

花の塔から降り注ぐ美しい輝きが、紫雨さんを優しく包み込んでいる。

〇〇「……とても素敵な夢だと思います」

紫雨「……僕にできるか、少し心配だけど…-」

〇〇「きっとできます」

ほとんど反射的に、けれど確信を持って……私は彼にそう告げた。

〇〇「私も、紫雨さん作るパビリオン……とても見たいです」

私を見つめる彼が、少しはにかんだように微笑みを浮かべる。

紫雨「君にも手伝ってもらいたいな」

〇〇「是非。お手伝いさせてください」

紫雨「ありがとう。その時はまた……この花を一緒に見よう」

〇〇「はい。必ず……」

まだ見ぬ未来へと想いを馳せながら、花の塔に誓う。

塔の放つ輝きは、まるで世界を優しく照らす希望の光のように見えた…-。

おわり。

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