月最終話 大丈夫

翌朝になっても、カノトさんは目を覚まさないまま……

人形のように美しい表情で、静かに寝息を立てていた。

(まるで本当に人形になってしまったみたい……どうすればいいんだろう)

不安を募らせていると、部屋にお医者様が入ってきた。

医者「カノト様は……よく眠っておられますな。 どうしたものか……」

カノトさんを診るお医者様も、困ったように眉を寄せる。

(どうしよう……)

その瞬間…ー。

カノト「うっ……」

◯◯「カノトさん!?」

カノトさんは急に胸を押さえ、苦しみ出した。

カノト「あ……う……」

◯◯「カノトさん! ……お医者様、これはいったい…… !?」

医者「おそらく、一つの体に二つの魂が入っているせいかと思われます。 本来一つの体には一つの魂しか存在できませんから、拒絶反応が起きているのでしょう」

◯◯「……それなら、片方の魂が外に出れば、治るんですか?」

医者「そうではありますが、取り憑いた物の怪は簡単には…ー」

◯◯「いえ……大丈夫です。私が、祓ってみせます」

私はお医者様の方に向き直ると、そっと頭を下げた。

◯◯「お願いします……私に任せていただけないでしょうか」

医者「……わかりました。私は外に出ていましょう。ですが、くれぐれもお気をつけて」

お医者様は静かに頷き、部屋を出て行った。

カノト「う……ぁ…..」

◯◯「……座敷童さん。さっきのお医者様のお話、聞いていましたよね?」

カノト「う……」

◯◯「もう、あなたを怖がらせる大人はいませんから……そこから出て来てくれませんか? このままだと、カノトさんが……」

カノト「………」

◯◯「どうか…一」

(お願い……)

懇願するように、ぎゅっとカノトさんの手を握ると…ー。

カノト「くっ……あ……ぁ……」

◯◯「カノトさん!?」

一度落ち着きかけていたカノトさんが、再び苦しみ出す。

慌ててカノトさんを抱きしめると……

(え……? 白い、もや…… ? )

カノトさんの体から、白いもやがふわふわと飛び出してくる。

それは一か所に集まって、元の座敷童の姿になった。

座敷童「……ごめんね。くるしめたかったんじゃ、なかったの。 ……ともだち、はじめてだった」

そう言うと、小さな手のひらをカノトさんの方に向ける。

座敷童「ありがとう。たのしかったよ」

(え……?)

次の瞬間、辺りが光に包まれた。

(これは……?)

光はカノトさんを包み込み、やがてゆっくりと消えていって……

完全に消えた時には、カノトさんの顔色はすっかり元に戻っていた。

◯◯「カノトさん! よかった……。 座敷童さん、ありがとう……あれ?」

カノトさんを抱きしめながら、くるりと振り返る。

けれど部屋のどこにも、座敷童の姿はなかった…一。

……

翌日、すっかり元気になったカノトさんと一緒に中庭にやってきた。

◯◯「カノトさん、もう体は大丈夫ですか?」

カノト「……うん、大丈夫」

カノトさんは、つぶやくようにそう言って微笑んだ。

けれどその直後、カノトさんの整った顔が、くしゃりと歪んで……

カノト「……大丈夫だけど、大丈夫じゃない」

ぽろり、ぽろりと、目から涙が溢れてきて…..

あっという間にカノトさんのふっくらとした頬を濡らしていった。

カノト「ずっと、ずっと仲良くできるって、思ったのに……。 なのに、あの子、消えちゃった……」

◯◯「カノトさん……」

涙を流すカノトさんを、私はそっと抱きしめる。

(こんなことで慰めになるかわからないけど、それでも……)

少しでも心が穏やかになるように、抱きしめる腕に力を込めた瞬間だった。

トンッ……トン、トン……

カノト「……え?」

背後で聞こえた音に、カノトさんは驚いて振り返る。

庭の真ん中に、あの座敷童の持っていた鞠が転がっていて……

??「一一」

何か、声が聞こえた気がした。

◯◯「今のって……」

確証はないけれど、きっとあの子だったんだろうと思う。

カノトさんは顔を上げ、じっと空を見つめる。

カノト「……またね」

まだ悲しそうな色は消えない。

だけどカノトさんは、穏やかな笑顔を浮かべている。

(二人だけの約束をしたのかな)

そんなことを思いながら、カノトさんの横顔を見つめていると……

カノト「◯◯」

くるりとこちらを向いたカノトさんと、視線がぶつかる。

カノト「ありがとう……」

それ以上は何も言わず、カノトさんはゆっくりと瞳を閉じる。

少し大人びたその表情が愛おしくて、私はそっと彼を抱きしめたのだった…ー。

おわり。

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