月7話 イリアの影

城に戻って来ると、メイドさんが嬉しそうにミヤのところへやって来た。

メイド「ミヤ様、イリア様がお戻りになるそうですよ!」

ミヤ「え……イリアが?」

メイド「はい。先ほど連絡があり、数日中にはお戻りになられると!」

ミヤ「そっか」

嬉しそうにミヤが笑う。

その笑顔とは裏腹に、彼の体がこわばっていくのがわかった。

(ミヤ……)

ミヤの胸の内を思って、思わずそっと彼の腕に触れた。

ミヤ「ありがとう。大丈夫だよ。 でも……」

ミヤが何かを言いかけたその時…-。

王妃「ミヤ」

王妃様と大勢の従者さん達が、廊下を通りかかった。

王妃「イリアが帰ってきます。あなたもすぐに、出迎えの準備を」

ミヤ「母上、その前にご報告が。 先ほど森で、対立国の魔術師と思われる怪しい男に出会いました。 イリアを探しているようです。すぐに警備の強化を」

王妃「対立国の……? けれど、あの国とはイリアが友好条約を結んだでしょう? 事は穏便に運んだと報告を受けています。あなたの勘違いではなくて?」

(そんな……)

ミヤ「しかし……」

王妃「まあいいわ。念のため兵士長には伝えておきます。けれど……。 あまりイリアを、惑わせないで頂戴ね」

ミヤ「……はい」

王妃様はそう言って、銀色の髪をなびかせながらその場を去った。

○○「……ミヤ」

ミヤ「よかった。これであいつも迂闊なことはできないよ」

ミヤがほっとしたように息を吐く。

ミヤ「けど……」

ミヤが踵を返し、私の真正面に向き直る。

(ミヤ……?)

私を見下ろすミヤは、今までに見たことがない真剣な表情をしていた。

ミヤ「オレがキミを、守るから。 例えイリアが帰って来ても、オレが」

○○「ありがとう、ミヤ……」

切実な声に、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。

……

その夜…-。

ミヤの真剣な表情が頭から離れず、寝つけずにいた。

(ミヤ……大丈夫かな)

その時、カタンと部屋の外で物音が聞こえた。

(何だろう?)

不思議に思い、恐る恐るドアを開け廊下に出てみると……

しんとしずまり返った廊下の窓から、月明かりが静かに漏れているだけだった。

ほっと胸を撫で下ろし、部屋へ戻ろうとすると……

??「昼間、ミヤ王子といた女か」

その声に驚いて振り返った瞬間、私の体は渦巻く闇に捕らえられた。

○○「あ、あなたは……!?」

闇から現れたその男は、昼間私とミヤの前に現れたあの魔術師だった。

魔術師「まあ誰でもいい……少し体を借りるぞ」

その瞬間、私を捕えている闇が体の中に入ってきて……

(……!?)

体の自由がきかなくなってしまい、魔術師も姿を消してしまった。

??「そのままイリア王子の部屋へ行け」

(頭の中で、声がする……)

意志とは裏腹に、私の足はイリアさんの部屋へと歩み出した……

イリアさんの部屋の前にたどり着くと、警備兵が立っていた。

警備兵「○○様、こんな夜中にどうされましたか?」

○○「逃げてください……!」

警備兵「え……?」

私の手から火の玉が生まれ、それが兵士さんに向かって飛んでいく。

警備兵「うわあっ!!」

兵士さんは、その場に倒れ込んでしまった。

○○「やめて!!」

魔術師「たわいもない。魔術大国ソルシアナの名が、聞いて呆れる」

○○「あなたは、何が目的なの……!?」

魔術師「お前の知ったことではない」

○○「……っ」

私の手がイリアさんの部屋の扉を開けようとした、その時……

ミヤ「書状はこっちだよ」

魔術師「ミヤ王子……!」

再び空間に闇が渦巻き、魔術師がその姿を現した。

ミヤ「友好条約締結の書状だ。お前はこれが欲しいんだろ?」

魔術師「それをよこせ!」

魔術師の手から火の玉がほとばしり、ミヤに向かって放たれる。

○○「ミヤ!」

ミヤ「……!」

けれどミヤが手を振りかざすと、火の玉は静かに跡形もなく消え去った。

ミヤ「あれ、できちゃった。オレ、案外才能あるのかもね」

ミヤが肩をすくめる。

魔術師「くそ……!」

魔術師は悔しそうに舌打ちしたが、またぶつぶつと呪文を唱え始めた。

○○「え……!」

ミヤ「○○ちゃん!」

闇が私を取り巻き、締めるように首にまとわりつく。

(息が、できない……!)

ミヤ「……その子を放せ!」

魔術師「ミヤ王子、それを渡せ」

ミヤ「……」

ミヤが、書状を持つ手にぐっと力を込める。

○○「ミ…ヤ……駄目……」

ミヤを止めようと声を出そうとすると、

○○「……っ!」

私の首を締めつける力が、強くなった。

ミヤ「○○ちゃん! くそ……ほら! お前の狙いはこれだろ! 早くその子を放せ!!」

ミヤが手にした書状を床に投げると、すぐに魔術師はそれを拾い、闇とともにその姿を消した。

それと同時に、締めつけられていた喉に空気が通るようになる。

ミヤ「○○ちゃん!」

ミヤが咳き込む私に駆け寄り、体を支えてくれる。

○○「ごめん……私の、せいで……」

ミヤ「キミのせいじゃないよ」

私の肩を抱きながら、安心させるように頬を撫でてくれる。

その手の温かさに、切なさがこみ上げていった…-。

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