月7話 私だって……

城に着くと、桜花さんはすぐに部屋で私の傷の手当てをしてくれた。

(桜花さんを元気づけるために行ったのに・・・・迷惑をかけちゃった)

肩をすぼめてうつむいていると、桜花さんが私の顔を覗き込んでくる。

桜花「怪我、まだ痛みますか?」

○○「いえ・・・・大丈夫です」

桜花「では、なぜ悲しそうな顔をしているのですか?」

桜花さんの瞳が、心配そうに揺れている。

桜花「私には、遠慮せずに言ってください」

(桜花さん、優しい・・・・)

柔らかな声が、胸を震わせる。

○○「私のせいで、桜花さんに迷惑をかけてしまったと思いまして・・・・」

桜花「あなたが私の迷惑に?」

桜花さんは驚いたように目を丸くすると、すぐに顔をほころばせた。

桜花「迷惑なんて思ったことはありません。あなたを一人運ぶことくらい、なんてことはありませんよ? それに・・・・」

言葉を詰まらせた後、彼はためらいがちに口を開く。

桜花「私だって男なのですから」

(・・・・桜花さん)

桜花さんの視線に射抜かれ、胸がトクンと高鳴る。

その時・・・・

従者「桜花様、よろしいでしょうか?」

扉が叩かれて、従者さんが部屋に入ってきた。

従者「桜花様、準備ができました」

桜花「ああ、ありがとう。行きましょう、○○さん」

(準備って、なんだろう?)

桜花さんの後を追って、私も部屋を出ると・・・・

独特な香辛料の匂いが、私の鼻腔をくすぐった。

(わぁ・・・・)

テーブルの上に置かれた鍋から、ぐつぐつと湯気が立ち込めている。

○○「おいしそう・・・・」

桜花「これは、○○さんが摘んでくれた薬草で作っていただいた薬膳です。 さあ、座ってください。一緒に食べましょう」

私と桜花さんは、鍋を取り囲むようにして座る。

桜花「独特な薬草の風味に、食欲がそそられますね」

桜花さんは、小鉢に鍋を取り分けて渡してくれる。

○○「ありがとうございます」

口に含むと、香辛料のいい香りと、甘みが広がっていく。

○○「あ・・・・おいしいですね」

桜花「ええ。体の芯まで温まります」

○○「薬膳っていうくらいなので、もっと苦いと思ってました」

桜花「ふふ・・・・あなたのために、おいしく作るようにとお願いしました」

桜花さんの頬は、血色のいい桜色に染まっている。

桜花「あなたのおかげで、素敵な春を迎えることができそうです」

(少しでも、桜花さんの役に立てたみたい・・・・よかった)

鍋から立ち昇る湯気を見つめる。

(ゆっくり時が流れているみたい・・・・)

心の奥までも温かくなるのを感じながら、私は幸せなこの瞬間を噛みしめていた・・・・ー。

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