月SS 暴かれた本心

彼女の部屋から自分に宛がわれた部屋へ戻ってくると、ため息が漏れる。

(まったく……自分に嫌気がさすよ)

望まない外交に、それ相応の非難を受けることは珍しくない。

そんなこと、慣れていたつもりだったけれど……

(彼女まで巻き込むことになるとは、思わなかった)

(それに、あんなふうに彼女を傷つけてしまうなんて)

―――――

ジョシュア『まさか、君が彼をかばうなんて思いもしなかったよ』

―――――

彼女があの男をかばったわけではないことくらい、わかっている。

なのに醜い嫉妬心が隠しきれなくて、頭を冷やすためにはあの場を離れるしかないと思った。

(〇〇は……今、何を思っているだろう)

ふと窓の外に視線を向けると、庭に出た〇〇の姿が見えた。

そして、彼女に声をかける一人の男性の姿も…-。

ジョシュア「……っ」

すぐに彼女の元へ向かおうとするけれど、オレはとっさに踏み出した足を止めた。

(こんな気持ちで〇〇の前に行ったら、また…-)

オレの言葉に傷ついた彼女の表情が忘れられない。

でも、胸には抗いようのない独占欲が渦巻いている。

(〇〇……)

思いを持て余すオレの目に留まったものは、舞踏会でつけていた仮面だった…-。

……

仮面をまとい、オレは彼女と男の元へと歩みを進める。

〇〇を後ろから抱き寄せると、彼女は目を丸く見開いた。

ジョシュア「待たせて悪かったね。さあ、ダンスに戻ろうか」

〇〇「ジョシュ…-」

彼女がオレの名前を呼ぶのを人差し指で止めると、男に見せつけるようにその可憐な唇を塞ぐ。

〇〇「っ……!」

男が立ち去る音を聞いて唇を離すと、彼女は息を整えながらオレを振り返った。

その無垢な瞳に見つめられると、いたたまれなさに押し潰されそうになる。

(仮面をつけていなかったら……きっと今、オレは君と向き合うことさえできない)

ジョシュア「……オレは、君を困らせてばかりだね」

(オレは、どうしてしまったんだろう)

〇〇はなお、オレをまっすぐに見つめてくる。

〇〇「ジョシュアさん、顔を見せてください」

(そんなことはできない)

(だって、そうしたら……オレは君を想いのままに傷つけてしまう)

〇〇「私は、困ってなんかいません。 ただ、ジョシュアさんの迷惑になりたくなくて……」

〇〇は、オレのつけていた仮面にそっと手を伸ばす

(オレの本心は、君に見せられるようなものじゃないんだ)

そう思いながら……彼女の手を、そっと止めた。

ジョシュア「君が気にすることじゃない。あれはオレの…-」

仮面がわずかに外されたからか、彼女の瞳に促されたからか……本心が口からこぼれ出る。

ジョシュア「断った取引で嫌がらせをされるのは、たまにあることなんだ。 けど、その矛先が君に向けられるかと思うと、冷静さを保てなくなる。 君を守りたいだけじゃない、ただの嫉妬だよ」

(本当に、笑ってしまうくらい……君に向けられる感情すべてに、オレは嫉妬してるんだ)

〇〇「嫉妬……?」

風に舞い上がった花びらが、彼女を華やかに彩った。

その美しい姿は、嫉妬にまみれた自分とは正反対の存在のようで…-。

ジョシュア「全部そうだ……君を喜ばせることも傷つけることも……オレ以外だと思うと許せない」

〇〇「ジョシュアさん……」

ジョシュア「これが本心だよ。失望した?」

(あの仮面の男も、こんな気持ちだったんだろうか)

(仮面を外してしまったら、もう後には戻れない……)

彼女と二人で見た歌劇の台詞を思い出す。

ジョシュア「……『私は貴方に見つけてほしいと願いながらも、この仮面に卑しい心を隠したかったのです。 この仮面は私の心の枷。貴方の身を守るための鑑…-』」

仮面の男の台詞が、今まさに実感を伴って口をついていた。

ジョシュア「もう君の前じゃ完璧ではいられない。けど、今だったらまだ戻れる……。 君を傷つけないように、礼儀を重んじるオレに」

言葉ではそう伝えながらも、オレは彼女を誘うように微笑みかける。

(ねえ……君はどうしたい?)

〇〇「歌劇の最後を覚えていますか? 薔薇の花を受け取ったら、男の人は仮面を取らないといけないんです」

ジョシュア「己のすべてを見せるために……か……」

彼女の手がオレの髪の毛に伸びて、花びらをひとひら摘む。

それは、薔薇のように赤い花びらだった。

〇〇「私は、今のジョシュアさんを知りたいです。 教えてください……本当のあなたを」

その言葉が、理性にすがっていたオレの心を解放する。

仮面を外し、もう目を逸らすことなく〇〇を見つめた。

ジョシュア「これがオレ……本当のオレだよ」

心のままに〇〇に口づければ、彼女の唇が、体が……オレの熱をどこまでも煽っていくのだった…-。

おわり。

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