月最終話 君を見せて

飲み過ぎてしまった私は、マルタンさんと離れたくなくて、ついわがままを言ってしまった。

そんな私にマルタンさんが言った言葉は…―。

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マルタン「俺の理性がどこまで持つかは、俺にだってわからない。 ……望んでいないなら、これ以上煽っちゃいけないよ?」

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(部屋につくまでに、答えを出しておいてってマルタンさんから言われちゃったけど……)

(……どうしよう、自分で言っておいて)

酔った頭ではまともに思考できず、答えの出ないまま寝室までついてしまった。

マルタン「さあ、いい子はもうおやすみの時間だよ」

私をベッドの上に横たわらせたマルタンさんが、おやすみのキスを額に軽く落とす。

そしてそのまま腰を上げて、彼は私に背を向けようとした。

○○「マルタンさん……」

離れて行こうとするマルタンさんにベッドの中から呼びかける。

マルタン「答えが出ていないのに、引き止めちゃだめだ」

顔だけを私の方に向けて、マルタンさんが困ったように笑った。

○○「どうしてわかるんですか?答えが出ていないって……」

マルタン「○○ちゃんのことならなんでもわかるさ」

○○「……マルタンさんはずるいです」

マルタン「ん?どうしてだい?」

○○「まるで私の気持ちを、全部見透かしているみたいで……」

すると…―。

マルタン「……困ったね」

再び静かにベッドに近づいたマルタンさんが、私の頬を撫でた…―。

マルタン「こんな無防備で……君は本当にいけない子だ」

マルタンさんの撫で方は、いつもの優しい調子とは少し違っていた。

(マルタンさん……?)

マルタン「怖くないのかい?俺のこと」

○○「マルタンさんのことを……?」

(怖いのとは違う……)

私はゆっくりと首を横に振った。

マルタン「……君は俺を信用しすぎだね」

ベッドの枠に手をついたマルタンさんが、私にかぶさるような体勢になる。唇が触れ合いそうな距離で目と目が合い、私は息を飲んだ。

○○「……あの……」

マルタン「駄目だよ、○○ちゃん。こういうときに怯えた顔を見せるのは得策じゃない。 どんな男の中にも、好きな相手をめちゃくちゃにしたいという願望は必ずあるんだ。 その欲に火をつけることになるんだよ」

○○「……」

私はまつ毛の先を震わせながら、どうしていいかわからずにいた。

マルタン「……今の君のすべてを見ておきたいと、俺が君に言ったこと覚えてるかな。 君を……俺に、見せてくれるかい?」

髪にキスが落とされて、マルタンさんの声が耳元で囁かれる。近づきすぎた唇が、時々かすかに耳たぶへ触れて、そのたび私の体は小さく跳ねた。

(私が……自分でマルタンさんと一緒にいたいって言ったんだから)

意を決して、私はきつく目をつぶった。

○○「あの、私……。 私は……マルタンさんのことが……好きです……だから」

そこまで話したところで、私の髪を撫でるマルタンさんの手が止まった。

マルタン「震えてるね……」

私の上から身を起こしたマルタンさんが、彼からもらった『人魚の涙』に指でそっと触れる。

マルタン「この宝石の意味は、『優しい誘惑』だと言っただろう?でもね○○ちゃん。 俺は、負けないよ」

いつもの優しい余裕のある笑顔を浮かべて、マルタンさんが私の髪を撫でてくれる。

(マルタンさん……)

マルタン「それに、酔っぱらわせて……なんて、ちょっと俺としてもカッコ悪いし」

○○「それは、違…―」

マルタン「違わないよ。いいんだ。 大丈夫、待っているからね」

安心させてくれる囁き声に導かれながら、私は静かに目を閉じた。

(やっぱり……マルタンさんには、敵わない)

私の髪を撫でる彼の手の熱を感じながら、私は次第に心地よいまどろみの中へと落ちていった…―。

おわり。

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