月7話 酔いのわがまま

クルーザーのバーカウンターで、ブランデーをご馳走になっているうちに、気付くと、随分と酔いが回ってきてしまっていた。

(ちょっと休憩すれば、すぐもとに戻るかな)

グラスを置き、立ち上がろうとしたけれど、唐突に視界が大きく揺れた。

○○「……っ」

マルタン「おっと……」

ふらついた私を抱き留めながら、マルタンさんが苦笑する。

マルタン「ごめん、飲ませすぎちゃったね」

○○「そんなことないです。落ち着けばまだ……飲めます」

いつもどおり喋っているつもりなのに、呂律が回らない。

(あれ……おかしいな)

マルタン「ははっ。その調子じゃ、これ以上は無理そうだよ」

○○「ちょっとだけ、待っていてください……」

マルタン「いや、もうここいらでやめておこう」

○○「そんな…―」

私は、マルタンさんを見上げて、眉を下げた。

(もっとマルタンさんと一緒にいたい……)

彼と離れがたい気持ちが募って、わがままを言ってしまう。私はどうやら自分で自覚している以上に、酔っているようだった。

○○「……」

マルタン「……困ったな」

眉を下げたマルタンさんが、口元に手を当てて、私から目を逸らす。

(困らせたいわけじゃないのに)

(ごめんなさい、大丈夫ですって謝らなくちゃ……)

頭ではわかっているのに……私の指先はマルタンさんのシャツの裾を掴んだまま、ちっとも離れようとしない。

マルタン「……この状況で俺を引き止めたらどうなるか、○○ちゃんはわかる?」

○○「……?」

マルタン「ここには俺達二人しかいない。酔った君は俺の腕の中にいる。 そんな男女の間に何が起こるか……わかるだろう?」

○○「……はい……」

マルタン「俺の理性がどこまで持つかは、俺にだってわからない。 ……望んでいないなら、これ以上煽っちゃいけないよ?」

私の体を支え直しながら、マルタンさんが優しく頭をなでる。

○○「あの……私……」

マルタン「とりあえず君を寝室まで送っていくよ。 部屋につくまでの間に、それでもまだ俺と過ごしたいか考えておいてほしい」

○○「……はい……わかりました」

マルタンさんは頷き返してから、私を軽々と抱え上げた。

○○「……じ、自分で歩きます」

マルタン「これは俺の役得だから、そんなこと言わずに楽しませて」

私は返す言葉を失い、マルタンさんの首に顔を埋めて黙り込んだ…―。

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