月9話 はしゃいでしまいました

帽子屋さんは私を部屋から連れ出すと、高層ビルの天上界……空中庭園へと向かった。

以前お茶会で訪れた時とはまるで別の場所のように、ひっそりと気味の悪さを感じる。

○○「……」

冷たい風が吹き付けるのに、私は自分の肩を抱きしめる。

マッドハッター「ここまで来て、怖気付きましたか?」

私の中に生まれた不安を揶揄して、帽子屋さんは私を抱き寄せる。

○○「結局まだ……帽子屋さんが何をしたいかを聞いていません」

マッドハッター「それは、私が君をどうしたいかということだね」

彼は私の姿を見て、数秒考え込んでから指を鳴らした。

するとどこかから移動式のクローゼットが現れて……

マッドハッター「こういうことですよ、○○嬢」

○○「え……!?」

彼が口にする度に、どんな魔法なのか私の体は光に包まれる。

マッドハッター「まずは少女らしいエプロンドレス、そして可愛らしい靴……」

まるで作り替えられるように……私の姿は童話の挿絵で見たアリスの姿に近付いていく。

マッドハッター「仕上げに、私が丹精込めて仕立てたこの帽子を……」

○○「ま……待ってください!」

童話の少女のような格好をしている自分が気恥ずかしくて、

私は慌てて帽子屋さんに話しかけた。

○○「……私は、あなたが知っている『アリス』じゃありません……っ」

青いエプロンドレスの裾をぎゅっと握りしめながら、彼に訴えると……

マッドハッター「……」

帽子屋さんは、悲しそうに眉尻を下げた。

マッドハッター「これは、失礼いたしました。ついはしゃいでしまい」

再度、彼が指を鳴らすと、私の体はまた光に包まれて……

○○「!」

気付くと、元の格好に戻っていた。

マッドハッター「誤解なきよう。私は、新しいアリスとしてあなたをお迎えしたいのです」

しゅんとする帽子屋さんが、なんだか可愛く思えて……

○○「それに、私の知ってるアリスは帽子なんて被っていませんでしたよ?」

彼の顔を覗き込んで、自然に微笑みかけた。

マッドハッター「おや、そうでしたか」

残念そうに唇を曲げて、彼は手にしていた帽子をクローゼットに戻す。

マッドハッター「せっかくこの日のために作り上げたのに……」

そしてもう一度私の姿を見て、彼は緑の瞳を満足そうに細めた。

マッドハッター「では、改めて。あなたに、私の新しいアリスになっていただきたい。 それは同時に、世界の変革を起こす存在……よろしいでしょうか?」

帽子屋さんが胸に手を当て、お辞儀をするように私の顔を覗き込む。

その妖艶な瞳の魔法にかかったように……

○○「……はい」

気付くとそう、頷いてしまっていた。

マッドハッター「……」

満足そうに、帽子屋さんが笑う。

帽子屋さんの笑みには、妖艶な大人の顔とも、無邪気な子どもの顔ともとれない不思議さがあった。

マッドハッター「では、準備はよろしいですか、お嬢さん?」

期待と不安を胸に抱いて、もう一度彼に頷く。

すると彼は私の手を取って、空中庭園のさらに奥へ、私をエスコートした…―。

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