月最終話 今日は特別

それから…-。

私は改めて、テーブルの上にのせられた見事なチョコレートケーキを眺めた。

よく見るとクリームが上手く絞れなかったのか、少しだけ歪んでいて…-。

(頑張って作ってくれたんだ)

小さな手で一生懸命にケーキを作る姿を想像し、思わず笑みをこぼしてしまう。

すると、シュニ―君は訝しそうに眉をひそめながら私の隣に腰かけてきた。

シュニ―「食べないの?」

〇〇「食べます! ちょっと待っててくださいね」

慎重に、ケーキを崩さないようにナイフを入れ、ゆっくりと切り分けていく。

お皿に二人分を盛りつけ、フォークを手に持った。

〇〇「いただきます」

ゆっくりと一切れ、口に運ぶと…-。

〇〇「! とってもおいしいです」

柔らかなスポンジにチョコクリームとイチゴが重なり合って、仄かな酸味が舌の上に広がる。

ふわりと広がる優しい甘さに、頬がとろけるような心地がした。

シュニ―「……前から思ってたけど」

柔らかい声にシュニ―君の方を振り向くと、彼は少し意地悪な笑みを口元に浮かべていて…-。

シュニ―「お前、食べてるときの顔すごく幸せそうだよね」

〇〇「そ、そうですか?」

シュニ―「うん」

(どうしよう、変な顔しちゃってたら……)

なんだか急に恥ずかしくなり、つい手が止まってしまう。

シュニ―君は満足そうに目を細めながら私の顔を覗き込んで…-。

シュニ―「……作った甲斐はあったかな」

〇〇「!」

大人びた物言いと、赤く輝く瞳に間近で見つめられ、どきりと胸が高鳴る。

けれどシュニ―君は涼しげな顔のまま、ちらりと視線をテーブルの上に戻した。

シュニ―「ケーキ、まだ残ってるよ」

〇〇「そ……そんなに見つめられると、食べにくいです」

おずおずとシュニ―君の顔を見つめ返すと、彼は唇を吊り上げて…-。

シュニ―「それなら……僕が食べさせてあげようか?」

いつにない妖しい笑みに大人びた雰囲気を感じて……頬がじわりと熱くなってくる。

〇〇「そんな……」

シュニ―「ふーん。僕の提案を断るんだ。 それじゃあ、ケーキは没収だね」

〇〇「えっ!」

ハッとシュニ―君の顔を見ると……

シュニ―「ふふっ……」

彼はおかしそうに肩を揺らした後、満足そうに微笑んだ。

シュニ―「冗談に決まってるでしょ。 いいよ、ゆっくり食べたら?」

焦る私を傍目に、彼はすっと体を離して元の位置に深く腰かける。

〇〇「あ、ありがとうございます……」

隣からの視線に緊張しつつも、シュニ―君の作ってくれたケーキが甘く心を溶かしていく。

(幸せだな……)

〇〇「このケーキも、スノウクリスタルと一緒ですね」

思ったことをそのまま言葉に乗せると、シュニ―君は目をぱちりと瞬かせた。

シュニ―「なんで?」

〇〇「シュニ―君が作ってくれたこのケーキも、世界で一つしかありませんから」

シュニ―「世界で一つ……」

微笑みかけると、シュニ―君はほんのひととき、何かを考え込むように目を伏せた。

けれど、やがて…-。

シュニ―「……今日は特別だからね」

視線を逸らしたまま、ぽつりと恥ずかしそうにそうつぶやく。

(特別……)

その響きにトクトクと鼓動が速まり、彼への贈り物のことを思い出す。

〇〇「あ、シュニ―君……! 私もシュニ―君に渡したいものがありました」

慌てていたせいか、少しだけ曲がってしまったカードの端を伸ばしながら、シュニ―君に手渡す。

〇〇「あの……部屋に戻ってから見てくださいね」

シュニ―「どうして?」

〇〇「それは……」

(どうしてって……言えないよ)

シュニ―「……」

うろたえてしまうと、シュニ―君に探るようにじっと見つめられる。

その口元に笑みが浮かんだかと思うと、彼は素早く私に背を向けカードを開き…-。

〇〇「あ!」

慌てて覗き込むけれど既に遅く、『大好きです』の文字がシュニ―君の前に広がってしまう。

シュニ―「……っ」

カードを見つめるシュニ―君の顔が、みるみるうちにほころんでいって…-。

シュニ―「……ありがとう」

大事そうにカードを胸に抱く姿に、胸に温かなものが込み上げる。

お互い少しだけ不格好な贈り物だったけれど、私はこの時間を含めたすべてが、宝物のように感じられたのだった…-。

おわり。

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